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こんなに心が震えるほど好きでも、いつかは消えていく感情だ。日吉の時だって、あんなに好きだったのに忘れてしまえたのだ。
瞬がそうだったのだから、西倉だってきっと簡単に忘れてしまえる。
それに、例え付き合ったとして、すぐにダメになってしまうだろう。隠さねばならぬような関係を、まだ若い西倉は厭い始めるに決まっている。
そんな瞬に、はぁ―――と、西倉が呆れたような溜め息を吐き出す。
「オレ、ちゃんと分かってますよ?オレが生徒だからダメなんだろ。だから、卒業まで待ちますって、言ったよな?」
待つって言っといて、キスはしたけど―――と、西倉がばつが悪そうにボソボソと言う。
「本気ですよ。卒業するまで待てるし、卒業してからだって先生との事、バレないようにできる。ひとつだけ約束してくれたら、オレ、ちゃんと待つ。待つから、先生も他のヤツと付き合ったりしないで待ってろよ。」
西倉が何の陰りもなく自信満々な顔で笑う。
はっ―――と、呆れた風を装ったが、吐き出した瞬の息は震えた。
「待つとか、待ってろとか。キミ、健気なの、俺様なの。どっち?」
「何でだよ。健気だろ?卒業するまで、たまのキスで我慢すんだから。」
怖いもの知らずの若さが、愛しくて堪らない気持ちになった。笑いたいのか、泣きたいのか、感情がごちゃ混ぜだ。
―――そう、怖いのだ。
色々正当な理由を述べてみても、単純に西倉に嫌われるのが怖いのだ。大人になるほど、弱く臆病になる。
今ならまだ、傷は浅い。
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