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「いい加減にするんだ! 悪ふざけでゲートの奥に生きる無辜の人々を無用な危険に曝すつもりか!」
脅威の到来を感知した行人と凪が、部隊長の制止を振り切って不落の防壁の外へ走り出す。アリスは条件反射で行人に追従した。
とある”少女”を保護する為に、普段は頑なに口を閉じている三つの門が今は開いている。
急速に閉門作業が進んでいるが、行人達の速度であれば閉門までに優に外部に飛び出せてしまうだろう。物理的に阻む者もない。
「遊びと違うんだぞ! 門の外に出たらお前達の身の安全は保障できない!」
行人達も愚かではない。部隊長の言葉に、行人は背後を振り返って言う。
「そんなのは俺も凪も折り込み済みだって。常識的に考えて遊びでこんな真似はしないだろ。だから隊長は迷わず門を閉めてくれ」
不落の防壁の守護を任された者達がそうであるように、行人にも譲れない思いがある。
――これを止めてはいけない。
――行人達が敵を迎撃をしなければ、この場所に迫る敵によって不落の防壁は大きな被害を受ける。
――防壁は機能を失い、魔物達が雪崩れ込んでくる事態にまで発展する。
――”いずれ起こる出来事”だとしても、まだ早い。
「えっ、あるぇ? 隊長さんは本当に門を閉めたりしないですよね? あんまりにも我儘だから、お灸を据えるつもりで『閉めるふり』ってやつだよね? ね!」
忠犬さながらに大人の指示に従って留まっていた或が、純粋な質問を投げかける。寄せられた無邪気な信頼に、部隊長は努めて冷徹な仮面を被って告げた。
「いや、このまま門は閉める。俺はこれから例の少女を”尋問”しに行く。お前は桐立を連れて中央で待機していてくれないか?」
「ちょ、待てよ! 待ちやがれ下さい!」
或が背中を向けた部隊長の肩を掴んで声を荒げる。
「そりゃあね、あいつらの自業自得だけどさ! 野垂れ死ぬ事が解ってて見捨てるのは鬼畜の所業だっ! 一緒に迎撃したらいいじゃん!」
「トロールの狂化種――にしても、あの個体は見るからに異常だ。戦力は未知。もし、手に負えない相手だったら? 先だって保護した少女に関しても特例だった。それが罠の可能性もある。今はゲートが繋がっている。万が一にも魔物の侵攻を許すワケには行かないんだ」
閉門をすれば一先ずの安寧は買える。慎重に慎重を重ねても足りないというのが彼等の認識であり、責任だった。
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