二章:白の虜囚、彷徨える幻影

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  ホームルームが終わり、生徒達が待ち望んだ放課後になった。恵流は手元の学生鞄をぐっと引き寄せて立ち上がるなり、素早く窓枠に手を掛ける。 「おい平野っ! てめっ、いつまで逃げやがるつもりだ! いい加減に観念しやがれッッッ!」 「君達こそいい加減にして欲しいなぁ! これ以上、僕から話す事は無いって何度言えば解るの?」 恵流は軽快な身のこなしで窓の外に身を躍らせる。既に正規の出入口は徒党を組んだ敵によって封鎖されていた。近重一人で恵流を追いかけていた最初の頃とは比較にならない本格的な包囲網になっている。 「平野はベランダ伝いに逃走中! 俺はベランダに出て平野を追い込むから、他は確実に二階の各教室の出入口を抑えてくれ!」 執行部の総力を挙げて恵流を捕縛する大規模な作戦が展開されているらしい。授業の合間休みはのらりくらりと話を流していれば程なくして教師が現れて三々五々に出来たが、その方法が通じない放課後に向けて調整したのだろう。 一般生徒達は何事かとその喧騒を遠巻きに眺めて話題にしていた。 ――大方、また平野(ゲス)がやらかしたのだろう。例の強化シナリオの攻略を妨害したとか。一応、権利を持ってるからな。 ――大掃討戦の一件で勘違いを起こして霧羽にちょっかいを出して逆鱗に触れたんじゃないか。 ――とにかく平野(ゲス)が悪いに違いないから、いいぞ執行部! 成敗したれ! 何とも無責任極まりない噂だ。しかし、執行部が恵流を狙う真意は誰も口にしていない。その情報が執行部から外部に漏れていないのは、恵流の不興を買う事を避けたいが為だろう。 七色の工作なのか、はたまた気遣いなのか。 「後者は、有り得ないよなぁ」 独りごちる。その間も放課後を迎えたばかりでスッキリしているベランダを全力疾走だ。 そのうち前方にも追手が現れる。背後には近重が鬼の形相で猛追している。見事な挟み撃ちだった。 「へっ。遂に年貢の収め時だぜ、クソ平野! 適当な教室に突入してみるかぁ? アァ!? 俺は構わないぜぇ! 今度こそ袋のネズミだ……!」 度重なる捕物失敗に様子の可笑しい近重に取り合わず、恵流は手摺を注視していた。そして、目的の影を捉えるなり――。 「あ、おいっ! 幾ら何でもそれは無謀だろっ! 早まるんじゃねぇ!」 ――今度は手摺を跨いだ。 二階とは言え、身体を痛めるには十分な高度がある。
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