プロローグ「チュートリアルを開始します」

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  『初期設定を正常に完了しました』 強化シナリオと銘打つからには、ここにも追加コンテンツがあるかも知れないと期待していた恵流だったが、どうやらその期待は外れたらしい。 『突如、世界の諸所に出現した異界に繋がる巨大な門――通称、ゲート。この設定世界の貴方は”ツァオベライ魔法軍事学校”の生徒として、ゲートより来る侵略者達に対抗する為の力を付けていく事になります』 勿論この説明文句も記憶の焼き直しだ。初めての時は、さしもの恵流でも大なり小なりわくわくしたが、二度目ともなれば感動も薄れる。 『ランクマッチで階級をあげて困難なクエストに挑んだり、ギルドを立ち上げて、気の合う仲間と共に難敵に臨むなり、あるいは武具職人として身を立てる事も可能です。学校の中には、貴方の力になってくれる人物がいるかも知れません。全て貴方次第です』 恵流は音声ナビを聞き流しながら、初期設定を省略した堪え性のない者達は、とっくに初期化された設定世界の大地を踏んでいるのだろうかと思いを巡らせる。 『これより貴方を第四設定世界”廻星のアリス”へ転送します。チュートリアルを省略しますか?』 ――いいえ。 長らく没入しなかった分の復習は済ませている。この選択をしたのは、あくまで念の為だ。 『転送先を教室に変更し、チュートリアルを開始します。それでは最後に――』 その瞬間、フッと足場が失われ、恵流の身体はありもしない重力に引かれて落下を始めた。行く先を見れば、白い渦が待ち受けている。そして、間もなく。 『――入学、おめでとうございます』 吸い込まれるように、渦に飲み込まれた。視界が光に染め上げられ、意識が切り替わるその直前。不意に、その声は聞こえた。 『当該アバターから<プログラム:ミレクシア>を検出』 「あ」 ミレクシア。それは、恵流と恵流を取り巻く一部の人間だけが知る第零設定世界だ。その名前を耳にして、恵流は薄れかけていた意識を繋ぎとめようとする。 『実行エラー。当該アバターは実行する為の条件を満たしていません』 けれど、既にシステムに掌握されている意識は恵流の意に反して、別の仮想領域に沈んでいった。  ◇   ◇   ◇
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