幕間:とある物語の転換点1

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  異界と人々の世界を繋ぐ(ゲート)。その出入口は当然の事ながら魔界の方にも荘厳と佇んでいる。 その魔界側の(ゲート)を守護する堅固な要塞があった。来たる日の攻勢に向けての前線拠点ともなる予定の施設は、不落の防壁(レテルニテ)と名称されている。 外側から、どのような攻撃に対しても一定以上の耐性を持つ『汎用防壁』――第一のプランタン。 次に、直接的な力に対して特化した防御力を誇る『物理防壁』――第二のエテ。 最後に、魔法的な攻撃に対して自動的に中和を行う魔法を内包する巨大な魔導具(アーティファクト)が展開する『魔法防壁』――第三のロートンヌ。 中央に詰めるのは、各地の魔法軍事学校で学業を修めた優秀な人材達の部隊――イヴェール。 不落の防壁(レテルニテ)は、その名に恥じない四つの要素で構成されている。 今日日まで第一のプランタンすら攻略されていない事から、その防衛能力の高さが伺えるだろう。 絶対ではないにしろ、内側にいれば魔界の何処よりも安全だ。 だが、外部に出た者まで守る機能は備わっていなかった。 普段は頑固に口を閉ざしている三つの壁。それが、危急を要する事情によって開かれた隙を突いて、三名の学生が飛び出してしまった。 その口も、今はまた閉ざされている。かかる脅威に対して、軽率な行動を起こした学生達と、(ゲート)の先で平穏に暮らす人々を秤にかけて、前者を見捨てる判断を下した部隊長を誰が責められようか。 「――ちゃん!」 顔面を蒼白にした青髪の少女が食い入るように見つめるモニターの先で、七色の光彩を長い髪に宿した小さな女の子が倒れている。 彼女は、突然糸の切れた人形のように力を失った。そして、すぐそこには脅威が――人間の優に十倍はあろうかという茶けた巨体の魔物『トロール』の変異種が迫っていた。 危地に気が付いた他の二名が駆け付けようとしているが、間に合わない。 「イヤ、やめて……やめてッッッ!」 七色の髪の小さな女の子は、道端の蟻のように意識される事もなく、その巨体の巨大な足の裏が作り出した影に飲まれた。 「そんな、うそ」 踏みしめられた大地が陥没する程の体重に、儚くすらある華奢な身体が耐えられる筈もない。青髪の少女は全身の力が抜けて、膝から崩折れる。 少女が呆然と魔法を発動する。どんな深い傷も、死に至ってさえいなければたちまち直してしまう『快復』の魔法。けれど、届かない。
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