幕間:とある物語の終わりと始まり2

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意識が遠退いた。右腕に付けた端末(バングル)を通して、恵流の耳に通知音が入り込む。夢から醒めるような心地で、うっすらと瞼を開ける。 薄着では少しだけ肌寒い18℃に保たれた肉体乖離型拡張装置(ポッド)の内部で微睡みの余韻を覚ますついでに、恵流は受信したばかりのメッセージを拡張画面(ARディスプレイ)に展開する。 その内容と暫し睨めっこをしてから、ポッドの口を開く。気だるい身体を起こすと、嫋やかな笑顔が出迎えた。 「おかえりなさい、恵流様。先程届いたばかりのめっせーじを見る限りですと、恵流様の思い通りになったと言う事でしょうか?」 「そうだね。良い意味でも、悪い意味でも」 末尾に添えられた一言は、小さく。恵流は小首を傾げるイリスに取り合う事はせず、隣に目をやった。そこには菖蒲が利用しているポッドがある。 「何を考えているのか、手に取るように解るなぁ」 少し遅れて、空気の抜ける音。ポッドから憂いに満ちた端麗な顔が覗いて、呟く。 「なぁ、のえる……ん?」 その声に違和感を抱いたのは、他でもない菖蒲本人だった。恵流は菖蒲の顔を――全貌を視認した段階で、とうに異常を察している。 「積もる話もあるけど、まずは場所を移した方が良さそうだね」 恵流の提案をイリスも不思議に思う。イリスには菖蒲が変わらずに見えている。 恵流は「二度もやらせないで欲しいなぁ」とぼやきつつ菖蒲の頭上を指さした。 菖蒲は促されるまま両手で頭頂部をまさぐる。柔らかな髪の毛の質感。それがどうかしたのか。いや、待てよ。自分の仕草に既視感を覚えて、菖蒲は人差し指と中指で前髪を挟んで見える位置に持ってくる。 「真っ白だ。え、待って。ということ、は……」 視線を下へ。そして、息を呑んだ。着ている制服こそ男子のものだが、身体つきが言い逃れのしようがないほどに女子――ありのままの鶴来菖蒲だった。  ◇   ◇   ◇ いそいそと恵流の私室に移動して、一息を吐く。完全に人目を避けるのは無理があったが、恵流達が利用していたのは恵流達が住まう青龍寮にあるポッドだったのは不幸中の幸いだと言えた。
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