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二章:白の虜囚、彷徨える幻影
『僕は、こんなもの――いらなかったッッッ!』
-----回想-----
これは、争いのある世界なら何処にでも有り得る悲劇の顛末だ。
とある地方に、とある剣術の名家があり、そこには幼稚園に入ったばかりの幼子がいた。
当時の彼は争いを好まない純粋無垢で穏やかな性格をしていた。そんな子供が自ら進んで剣を学んでいたのは、複雑な事情も何もない。本当に子供らしい理由だった。
『あっはっは、”凪”は父親の俺と違って筋がいいな! 鳶が鷹を産むとはまさにこの事か! 撫でてやる!』
『それは私に失礼じゃないかしらー。でも、そうねー……ただの親馬鹿なのかも知れないけど、この子は天才だわ。私も撫で撫でするー』
自分が木刀を振るだけで両親が喜んでくれたから。それだけで幸せになれたから。剣に拘りはない。求めたのは強さではなく笑顔だ。
『この様子なら、もう十年もすれば天神五種の宝剣を託しても安泰だな!』
ただ彼の生家には、能力に加えて芸術性も兼ね備えた、一振りだけでも人生を豪遊しても有り余る程の価値を持つ古式魔導具が五つも保蔵されていた。
守るべきものを守る為の剣。へぇ、そう。なんて。どうでも良かった。敵などいなかった。情報媒体が頻りに垂れ流す世界的不況も、魔界の情勢も、紙の文字をなぞるよりも遠い、優しい世界だった。
いや。それは、子供の無知が作り出した幻想の楽園だった。
幼い彼は悪意と出会う。最悪の形で、最愛の者達を奪われる。
持ち運ぼうとすれば幼い彼でも苦労しないほど軽いのに、抜こうとすると重たくなる五つの荷物。
――守るための剣じゃなかったの?
『宝剣さんは所有者と認めた者にのみ振るわれるの。ふふ。初めて役に立ってくれたわねー、宝剣さん』
――こんなのがなくたって、ぼくは戦える。
『そういえば私、一度も凪を叱った事なかったかも知れないねー』
頬を打たれた熱さと、その後に身体を包み込んだ温もりは、未来の彼を蝕む呪いになっている。
『親の言うことは聞きなさい。貴方が残っても足手まといなのよ。あんまり親らしい事してあげられなくて、ごめんね、凪。駄目な親だったね』
彼の脳裏を駆け巡った走馬灯は、幸せな日々が死に失せる最期に違いなかった。
『宝剣さん――守ってね。私達の、代わりに』
その日から彼は宝剣の守護者となった。彼の心身は、今も剣の檻に囚われ続けている。
-----回帰-----
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