飛ぶ魚

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空を飛ぶ魚になる夢を見た。 わたしのおなかには、彼がいて眠っていた。大きな魚は、小さい魚を食べる。弱肉強食って意味の諺が、脳内で踊っていた。 彼よりわたしは、強いだろうか。 眼下に建設最中な、バベルの塔が見えてきた。エラごしに彼が覗いて、すごいねえと感嘆混じりな息をついて、言った。 くすぐったいから、あまり動かないで。おなかが、むずむずするわ。 ああ、ごめんね。 引っ込み思案で、優しい彼の撫でる感触が心地よかった。 おきて、おきて、朝だよ。 背中を揺り動かされ、目が覚めた。 ずいぶん寝てたけれど、疲れたの? 昨日、夕飯食って、風呂入って、すぐ熟睡だったよ。 連休に互い都合がつかず、ひとりででかけたブリューゲル展。予想通りどこもかしこも人混みで、そのなか文字どおり泳ぎながらな感じで美術館までいって、がさがさした列に並んで見た、聖アントニウスの誘惑や、バベルの塔や、風刺版画たち。 大好きな作品である、巨大な魚の腹からたくさんの魚が出てくる版画。うしろで空を飛ぶ魚がなんだかかわいいから、プリントされた飴まで買ってしまった。 ねえ。 わたし、あなたより強い? 彼は困ったような、考えるような、笑みを浮かべて答えた。 五分五分だよ。 わたしは安心して、彼をベッドに引き寄せた。 ふたりで、魚にでも、なんだか滑稽で、楽しそうな生き物になる夢を見たくて。 口づけと、指先に感じる温度をスイッチにしながら。
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