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第1章
「俺、彼女出来たんだ」
そういって目の前の彼は幸せそうに微笑む。私は思わず手に持っていたペンを落とした。
ここは放課後の放送室。目の前にいる彼と私は同じ放送部員であり、長年一緒に家族ぐるみで付き合いがある幼馴染でもある。今ちょうど放課後の下校の音楽を流し、後2・3回下校を促す放送を入れれば、彼といつも通り帰れるはずだった。
――そう。それを楽しみにしていたのに。
「木戸、ペン落としたぞ……って木戸どうした!?」
彼に肩をつかまれ激しく前後に揺さぶられる。肩から衣服越しに伝わる彼のかすかな体温と、前後に揺さぶられたことによる気持ち悪さで自分の思考が動き出した。
「あ、ごめんね。ありがとう」
取りあえず口角を上げ笑みの形をとる。彼がほっとしたように顔を緩めた後、また口を開こうとする。その続きの言葉は聞きたくない。目をつぶった瞬間……
「放送終わった?」
突然私の声でも彼の声でもない声が響いた。目を開き、音の発生源であるドアのほうへ視線を向ける。そこには廊下で何度か見かけたことのある女の子が立っていた。
「まだ終わってない。木戸、こいつがさっき言っていた俺の彼女」
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