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彼が私を名前でなく名字でいつの間にか呼ぶようになったのだって、クラスの子にはやし立てられるのが嫌なんだろうぐらいにしか考えていなかった。でも今思うと、それは好きな子ができて私と恋人同士だとその子に誤解されたくなかったからなのかもしれない。
放送室にアラームが鳴り響く。このアラームは下校時刻になったことへの合図だ。私は下校前に鳴らしていた音楽を消し、気持ちを切り替えるように大きく深呼吸をした後、マイクのスイッチを上げた。
「……ただいま下校時刻となりました。校舎に残っている生徒は速やかに下校してください。繰り返します。ただいま下校時刻となりました。校舎に残っている生徒は速やかに下校してください」
マイクのスイッチを切り息を吐く。本来、下校時刻のチャイムは最低5分前と下校時刻に鳴らさないといけない決まりだ。
それを私は今回忘れて下校時刻にしかしていない。普段の自分から考えると、考えられないミスをしている。もしかしたら、明日顧問から注意を受けるかもしれない。
それは私のミスだから仕方のないことだけど、彼にだけには気づかれたくない。彼は絶対に私を責めたりしないだろうし、彼はむしろ自分のせいにして私をかばう可能性のほうが高い。そして、顧問の前で大方、俺が木戸さんの邪魔をしてしまったとか言って私をかばった後、必ず心配そうな顔で何かあったのか?俺でよければ相談に乗るというだろう。
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