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私は乱した呼吸を整えるように、深くため息を吐いた。そしてこの小さな頼りない光でも、見えてさえしまえば、先ほどの自分の行動が情けない程馬鹿馬鹿しい事に気づいた。 「我ながら恥ずかしいな、いい年をして暗闇を怖がるだなんて」  安心したためだろうか、ふいに笑いがこみ上げて来た。先程までの取り乱した自分がまるで他人事のように思え、その様のなんと滑稽だった事か。  吹き出しながら歩いてると、光の元である駅に着いた。駅室には裸電球が一つぶら下がっている。  自嘲していたら異様な程に気持ちが高揚してしまい、つい私は駅員に話しかけようと、駅室の扉を開けてしまった。 「遅くまでご苦労様です」  なんて事は無い挨拶をかわし、拙い世間話をするつもりだった。  開いた扉の中は、誰一人いなかった。  裸電球に虫達が集まり、風も無いのにゆらゆらと揺れている。  いつもこの時間には駅員がいたはずだ。明かりもついているでは無いか。諸用で出かけているのか、それとも今日はもう帰ってしまったのだろうか。  私も何か用件があった訳では無い、少しばかり残念だったが駅を後にする。ただすぐ家に帰る気にもなれなかったので、近くの歓楽街へ赴き居酒屋を探した。  夜もまだ長い、赤提灯はいたる所でぶら下がっている。陽気な笑い声を期待し、手頃な店の戸をガラガラと開けた。  しかしそこはまたしても無人であった。  おかしな所は共通していた。  酒や料理だけ並び、ほんの少し前まで誰か居た形跡がある。人だけ居ないのだ。  隣の店もその隣の店もそのまた隣の店も。私は目に入る店全てを開けてまわった。どこにも人が居る事は無かった。きっと近くで火事でもあったのだろう、誰もが外へ飛び出し見物しているのだ。
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