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健太と西條の二人が宿舎へ戻ってくると、ちょうど他の部員たちもプールから戻ってきたところで、健太の姿を見つけるとみんな口々に「大丈夫か?」と声をかけてくれた。
なかには健太の髪をくしゃくしゃと掻き回したり、肩へ腕を回していく者もいて、みんなに迷惑をかけて申し訳ないと思う一方、こんな自分でも水泳部の仲間として見てもらえているという嬉しさから健太の顔に笑みが浮かぶ。
「久米、あんまり嬉しそうな顔しない方がいいよ」
西條が健太と腕を組みながら耳打ちした。
なんで?と健太が首を傾げると、だってほらと言って西條が指した先には少し不機嫌そうな内藤がいて、健太と目が合うとバツが悪そうに目を逸らせた。
「俺、内藤になにかしたのかな」
内藤が健太に対してあんな態度をとるなんて。
自分でも気づかないうちに内藤へ何かしてしまったのだろうか。健太が戸惑ったように西條の腕を掴む。
西條は内藤の方をちらりと見ると「全く……どうしようもないな」と言って、ため息をついた。
「あーあ、もう。あいつも案外心が狭いよな。自分のものになった途端、これだから。久米はなにも悪くないから気にすんな」
「でも」
「内藤のあれ、ヤキモチだから。どうせ他のやつらが久米に触るのが面白くないんだろ」
「え? や、やき……えっ?」
健太の頬がポッと染まる。
内藤が自分相手にヤキモチを妬くなんて健太には想像もつかなかったことだ。だけどそれが本当ならすごく嬉しい。
(まさかとは思うけど、だけど……)
少しくらいは自惚れてみてもいいのだろうか。
「そ、そうなのかな。ヤキモチ、妬いてくれたのかな」
恥ずかしそうにそう呟くと、西條が突然「久米!」と叫んで健太に抱きついた。
「西條くんっ?」
「久米! もう、何なの? なんで久米ってそんなに可愛いんだ?」
「えっ、や、なに?」
「まじヤバい。ねえ久米、内藤なんかやめて俺と仲良くしない?」
「へ? 西條くんっ?」
健太に抱きつく西條の腕に力が入る。
一方の健太はどうしたらいいのかわからず、ただおろおろするだけだ。そんな様子も西條は可愛いと言って、さらに健太にぎゅうぎゅうと抱きついた。
「おい、お前らデキてんの?」
くっついている二人に誰かが声をかけた。
健太が声のした方へ顔を向けると、そこには同じ水泳部の斎藤がいて、ニヤニヤとからかうように笑っている。
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