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「前から思ってたんだけど、久米って俺のこと避けてない? 俺、結構考えなしなところがあるから、もしかして久米を怒らせるようなことでも言ったりしたりしたのかなと思って。だとしたら謝りたいんだ」
「あの、俺別に怒ってないよ?」
「でも久米、普段から俺のことちょっと避けてるところあるだろ? 他のやつには普通にしてるのに、俺とは話すのもイヤそうだし」
イヤだなんてあるはずがない。内藤がいるから健太は水泳部に入ったのに。
話しかけられると嬉しすぎて緊張してしまって言葉が出なくなってしまうなんて、本人を前に言えるわけがない。
「そんなの、内藤の気のせいだって。今だってほら、普通に喋ってるし」
健太自身が不甲斐ないのが悪いのであって、内藤がどうとかではない。その上、自分が内藤のことを嫌っているなんて誤解をされたままなのはイヤだ。
「俺、内藤のこと避けてないよ」
ね?と健太は頑張って笑顔を作り、内藤に笑いかけた。
だが、いくら健太から避けてないと言われても内藤は納得がいかないようで、その表情は固いままだ。健太が内藤のことを嫌うなんてまずあり得ないのに。
これから一緒に花火大会に行くのに、このままでは気まずすぎる。健太は何とか内藤の誤解を解こうとさらに言葉を続けた。
「本当だって。避けてないし、嫌ってもないよ。だって俺、内藤がいたから水泳部に入ったんだし――――」
「え?」
内藤が目を見開く。
「えっ……あ、いや、そうじゃなくて」
「久米、俺がいたから水泳部に入ったのか?」
「ち、違っ……」
「違う?」
「違わない、けど」
内藤の誤解を解こうと言い募るうちに、つい健太の口が滑ってしまった。
出てしまった言葉を今さら「嘘でした」なんて取り消すことなどできない。しかもよくよく考えてみると、君がいたから部活に入っただなんて、まるで健太が内藤に告白でもしているようにも受け取れる。
「久米?」
顔が熱い。
健太は熱くなった顔を俯け、ぎゅっと目を閉じた。
(ど、どうしよう……俺、なんてこと言ってるんだよ)
やっと落ち着きかけていた健太の心臓が、また忙しなく動き出した。
俯く健太の耳へ駅前の雑踏に紛れて自分の心臓の音がうるさいくらいに響く。
「わかった」
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