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これまでの内藤に対する健太の素っ気ない態度……いくら緊張していたとはいえ、確かに良くはなかった。
都度、自分なりに反省してはいたが、それを直接内藤から言われてしまうと本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまう。
「そろそろ行こうか? みんな待ってる」
健太の気持ちを知ってかしらずか、内藤はそう言うとくるりと健太に背中を向けた。
気のせいだろうか、内藤の耳が少し赤くなっているように見える。
(内藤?)
健太が内藤のことを苦手だと思っているという誤解は解けたはずなのに、今度は内藤の方がどこか素っ気ない。
内藤の態度は気になるけれど、自分が今まで彼に対してとってきた態度のこともあるし、それに振り向いてくれない内藤に不思議と嫌な感じはしない。足早に先を行く内藤の背中を健太は見失わないように小走りで追いかけた。
会場である河原へ近づくにつれて徐々に人が増えてきた。
駅前を出た時はまだまばらだった花火大会へ向かう人たちも、健太と内藤が河原近くへ到着するころには一定の人の流れができる程になっていて、健太は先を行く内藤とはぐれないよう必死で内藤の背中を追いかけた。
健太は実は今までたくさんの人が集まる場所へ行ったことがない。もちろん今日みたいに人混みに揉まれるのは初めての経験だ。
普通に生活するのに支障はないし、全力でなければ走っても大丈夫なくらいには強くなった。
けれど長い間、病院で守られるように過ごしてきたせいか、健太は未だに大勢の人が集まる所が少し苦手だ。
大丈夫だとわかっていても、もしまたここで具合が悪くなったらなどと考えると、わざわざ自分から大勢の人のいる場所へ行こうなどとは思えない。
毎日の通学もラッシュを避けるため、早い時間の電車を利用している。
「あっ、すみません」
慣れない人混みの中、健太の肩が誰かにぶつかってしまった。ぶつかった相手が誰なのかもわからなくて、とりあえず側にいた人に頭を下げる。
最初は何とか内藤についていけていたが、歩くのがやっとな健太に対し、人の波を縫うようにすいすいと先を行く内藤の背中はあっという間に見えなくなってしまった。
「内藤」
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