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「俺が小学校の一年か二年のとき、ばあちゃんが入院したんだ。俺、その頃すげーばあちゃんっ子でさ、ばあちゃんが入院してからは毎日のように病院に行ってた」
学校の帰り道に病院があったから半分遊びに行ってたようなもんなんだけど、と内藤がくしゃりと笑う。
「最初はちゃんとばあちゃんの見舞いをしてたんだけど、しばらくするとばあちゃんの病室以外のところも気になりだして」
「それで?」
「病院の中を探検した」
内藤がいたずらが見つかった子どものような顔をした。
※※※※※
『真弘、真弘どこ行ったの?』
内藤が小学二年生になって間もなく、母方の祖母が入院した。
当時、内藤の自宅近くに住んでいた祖母は普段から元気のかたまりのような人で、そんな祖母が入院したと聞いたときは内藤も本当に驚いた。
おばあちゃん子だった内藤は大好きな祖母のことが心配で、ちょうど小学校の帰り道にあった祖母の入院する病院へ、毎日のように立ち寄っていた。
『まあちゃんも退屈なんだよ。病院の中なら大丈夫でしょ』
『それはそうだけど……あの子、元気がよすぎるから。よそさまに迷惑かけてないといいんだけど』
『あの子はいい子だよ』
祖母が病室の入口をちらりと見て微笑む。
ドアの陰に隠れて母と祖母の様子を窺っていた内藤と祖母の目が合う。
目を瞠る内藤に祖母は、きゅっと口の端を僅かに上げると目線で「行っておいで」と合図を送ってくれた。
内藤が小さく頷いてドアから離れる。
そのまま足音を忍ばせて祖母のいる病室から離れ、廊下の端まで行くと、辺りに人がいないのを確認して内藤は近くにあった非常階段を駆け下りた。
病院はエレベーターを使う人がほとんどで、非常階段を使う人はめったにいない。
人気のない階段に内藤のテンポのよい軽い足音が響く。
最初は調子よく階段を駆け下りていた内藤だったが、誰もいない階段で思いの外響く自分の足音を聞いているうちに、なぜだか心細くなってきた。だんだんと足どりがゆっくりしたものになる。
(ばあちゃん、いつ家に帰れるんだろ)
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