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電車の窓ガラスに映る青白い顔。細い首、細い腕、うすっぺらな体。見なれた自分の姿なのに、それは周りの同年代の人たちと比べてあまりにも頼りない。
(こんなだから時間に遅れただけで寝込んだとか思われるんだろうなあ)
内藤のように逞しい体つきにとまではいかないまでも、せめて服に着られない程度にはなりたい。
無意識に胸元へ伸びた指先に、そこだけ僅かにほかと感触の違うところがある。もう何年も経って薄くなっているが、健太の胸の真ん中には縦に長く手術痕があった。
小学校に入学して間もなく、休み時間に同じクラスの友だちと運動場を駆け回っていた健太は、突然の息苦しさと胸の痛みでその場に倒れた。
その時、いったい自分の身に何が起こったのか全くわけがわからなくて、けれど徐々に遠くなる意識のなか、グランドに横たわった健太の視界のはしっこに見えた桜の木の薄いピンク色と、遠くで聞こえた自分の名前を呼ぶ友だちの慌てた声は、今でも記憶の端っこに残っている。
結局、健太はそのまま病院に救急搬送され、小学校生活の半分以上を病院のベッドの上で過ごすことになってしまった。その間手術を二度受けている。
退院したのは小学六年を半分も過ぎた頃で、定期的な通院とある程度の運動制限はあったが、日常生活をおくる上で特にこれといった問題はなかった。
だから健太も久しぶりに学校へ通えることをとても楽しみにしていた。
だが実際の学校生活は健太が思っていたものとはずいぶん違っていて、見るからに儚げな健太の見た目とそれまで長期入院をしていたことから、健太は残り少ない小学校生活はもちろん中学校に上がってからも周囲から、まるで壊れ物にでも触るような扱いをうけた。
(高校は知ってるやつのいなさそうなところにしたんだけど……やっぱり、もっと食べないとダメだよなあ)
電車に揺られながら健太は片方の手で自分の二の腕に触れた。半袖のTシャツから覗く腕は華奢で白い。
もちろん女の子のような柔らかさなんてなく、ただ細いだけ。
ちょっとは鍛えてみようと腕立て伏せに挑戦してみたりもしたが、それも二回がやっと。体を鍛えようという試みは、結局自分の非力さを痛感しただけに終わった。
(あー、もう。せっかくみんなで遊びに行くのに、余計なこと考えない!)
健太は窓ガラスに映る自分の姿から顔を背けるように足元へ視線を移した。
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