夏の空と輝くきみ

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 少し伸びた前髪が目にかかる。さらりとした癖のない髪。  普段は特に髪型に気を使ったりしないのだが、今日くらいはちょっと弄ってもよかったかもしれない。 (服だって結局これだし)  二時間も迷った結果、健太が今身につけているのはシンプルな白いTシャツだ。裾に青色の小さな魚が三匹泳いでいる。  これはこれで悪くはないが、いつも部活でTシャツばかりなので今日くらいは違うテイストにすればよかったかなと、健太はTシャツの裾をつまんだ。  裾にいる魚が電車の揺れに合わせて健太の手元でふるふると揺れる。 (いや、なにもデートじゃないんだし)  はたと健太の動きが止まる。 (デ……デートって。なに考えてんの、俺)  今日一緒に花火大会へ行くのは全員水泳部の仲間ばかりで、みんな男だ。体育会系のノリはあってもデートの要素なんてこれっぽっちもない。  なのになぜか健太の頭の中に浮かんだのは内藤の顔で。  頭の中に思い浮かんだことが周りの人たちに見えているわけはないのだけれど、健太は頭の中の内藤の顔を打ち消すようにふるふると頭を左右に振った。顔が熱い。 (内藤は友だち……友だちだろ。なに考えてんの、俺)  健太は顔を上げて、何気なく周りへ目を向けた。  電車の中には花火大会に行くのだろう浴衣姿の女の子が何人かいて、華やかな浴衣の柄が健太の目の端に入る。  紺や緑、黄色にピンク。カラフルな地の色に朝顔や金魚などの模様が入っていて、電車の中でそこだけぱっと花が咲いたように見える。  健太と同年代くらいの数人の男の子らが、チラチラと横目で見ながら浴衣姿の女の子たちのことを気にしている。  健太はそんな彼らからふいっと目をそらすと、窓の方へと顔を向けた。  夏になってずいぶん日が長くなったが、外はもううっすらと暗くなり始めている。健太は電車の窓に映る白いTシャツを着た自分の姿を見ながら、浴衣を着た自分の姿を想像してみた。  ひょろりと頼りない身体に男物のシンプルな浴衣姿には華やかさなんて微塵も感じられない。 (俺が浴衣を着たって、どうせ内藤は何とも思わないんだろうけど)  健太の口からため息がもれる。  女の子になりたいとか、可愛い柄の浴衣が着たいとかいうわけではなくて。ほんの一瞬でいい。内藤から、ちょっぴり特別な目で見てもらえたならいいなと健太は心の隅っこで思った。
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