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健太は窓ガラスに額をぐりぐりと擦りつけながら、これまでの自分がとった行動を思い返し、内藤に対するあまりの愛想のなさに情けなくなってしまった。
内藤に憧れて、少しでも内藤の近くへ行きたくて水泳部に入ったのに、これでは近づくどころか呆れられて……そのうち嫌われてしまうかもしれない。いや、もしかしたらすでに手遅れなのかも。
これも全て内藤がかっこよすぎるのが悪いんだと、本人が目の前にいないのをいいことに、健太が自分の不甲斐なさを全部内藤のせいにしてみる。
だがそんなことを考えてみても、一度落ちた気分がそう簡単に浮上するはずもなく、そうこうしているうちに降りる駅に到着した。
少しの緊張と、たくさんのドキドキを胸に電車を降りる。
花火大会に向かう人の流れに乗りながら改札口を抜けた健太は、駅前の人混みの中に内藤の姿を見つけて目を瞠った。
「え……っ」
待ってると言っていたからもしかしたら、なんてちょっとは考えた。けれど、待ち合わせに遅れた部活の仲間をわざわざ駅まで迎えに来るなんて、そんなの自分にとって都合のいい妄想だ。
なのに健太の目に見えているのは間違いなく内藤の姿で、まるで健太のことを探しているかのように改札口へ目を向けている。
「なんで?」
まさかそんなはずがない。きっと内藤はたまたま駅に用事があってここにいるだけだ。そうでないとすれば、健太が今見ているのはもの凄く内藤にそっくりな別人なのだ。
そんなことを考えているうちに、目を瞠ったまま固まっている健太と内藤の目が合った。すると内藤は、手を振りながら改札口で呆然と立ちつくしている健太の方へ小走りで駆けてきた。
「久米!」
名前を呼ばれて我にかえる。
「……内藤」
「久米、早かったな」
あっという間に健太の元へやって来た内藤は、膝丈のラフなパンツに黒いTシャツ、そして頭にはTシャツと同じ黒いタオルを後ろで結んでいる。
ゆったりとした格好なのに、普段の練習で培った厚い胸板や肩や腕にバランスよくついた筋肉がTシャツの布越しでもわかる。
もちろん健太と比べるまでもないが、自分とはあまりにもかけ離れた内藤の姿に健太の目が吸い寄せられる
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