759人が本棚に入れています
本棚に追加
小太郎は書類を丁寧に畳み直しポケットへと仕舞い、自分の想いを怜治へと語る。
「シャレじゃないってば。俺はずっと怜治さんの傍に居たいって、前から言ってるでしょ?それを信じて貰う為には、この方法しか無いかなーって思ったんだよ。怜治さんに家を出られるかって聞かれて、俺は出られるって、怜治さんの為なら何でも出来るって答えたけど、やっぱり、怜治さんの傍を離れる事は出来ないよ。ずっと傍に居たいもん。」
ずっと傍に。
それがどういう事か本当に分かっているのかと、怜治は心底呆れる。
「ほんっと、アホだ。ウチは世間一般とは違うんだぞ……宇崎の名で苦労する事もあるのに……。」
「うん、分かってる。でも、それも覚悟の内だって。いや、怜治さんと同じ苦労なら喜んで受けるよ。」
「気楽に考えやがってっ……!」
えへへと締まり無く笑う小太郎を怜治はぶん殴ってやりたかった。
何故そんな簡単に自分の人生を投げ出せるのかと不思議だった。
(世間体とか、家の事とか、絶対苦労するって分かってるのに、どうしてこんなに迷いが無いんだよ……。)
若さゆえか。
盲目的な愛ゆえか。
それは怜治にも、小太郎本人にも分からぬ事だった。
ただ、怜治の傍に居たいと言う小太郎の強い思いが、大胆な行動をさせたのだ。
(アホだ……ほんとにアホだ……。)
怒りを通り越して呆れる事しか出来ない怜治。
(養子だなんて……普通、高校生がこんな事までするか?こいつは本当に俺の想像を上回る事をやってくれるよなぁ……。)
でも、悪く無いと思った。
これだけ想われて、行動に出て、求められたら……両手を上げて降参するしか無い。
(ああ、もう、考え込んでた自分が馬鹿らしくなって来た……。)
かの、ある意味自分よりも自由人な友人の言う様に、己の思うがままに生きてみるのも案外良いかも知れないと、怜治の表情が緩む。
一度認めてしまえば至極簡単なもので、心が軽くなった様な気がした。
憑き物が落ちたような、影の無い瞳を見て、律は自分に出来るのはここまでだと、そっと部屋から退室したのだった。
最初のコメントを投稿しよう!