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「怜治さん……。」
「お前にとって、俺が一番だと……。」
目の前に居るのは、本当に怜治なのだろうかと小太郎は思った。
初めて見る、弱々しい姿。
愛情に飢えた子供の様な怜治がそこには居た。
(ああ、長谷川さんの言った通りだ……。)
愛されたくて、でも上手に気持ちを伝えられない子供。
その姿がそこにあった。
小太郎の胸が切なさでいっぱいになる。
今自分が行うべき事は何かと考え、導き出した答えはただ一つ。
あの施設では当たり前のように毎日行われている事。
愛しく思う人の元へと歩み寄り、そっと両腕を広げ、包み込んでやる。
抱き締められた怜治は一瞬体を強ばらせるも、直ぐに緊張を解き、全身でその温かさを感じ取る様に静かに目を瞑った。
小太郎の落ち着く温もり。
日向の匂い。
子供の頃から変わらない笑顔。
怜治が欲して止まなかったものが今ここにある。
「ほんと、アホだな……。まともな人生を棒に振るなんて……。」
「まともな人生って?」
「普通の女と結婚して、普通の家庭を持つのが、普通の幸せってもんじゃないのか……?」
「普通って何?俺には分からないよ。」
「俺じゃなくて、別の奴を選んだ方がお前の為なのに……。」
「嬉しいなぁ、俺の事を心配してくれるなんて。」
「茶化してんじゃねぇよ。」
「棒に振るなんて思ってないし、俺の幸せは怜治さんが傍に居てくれる事だよ。」
そう言ながら幸せそうな笑顔を見せる小太郎は、怜治の頬へと口付ける。
「?!?!調子に乗ってんじゃねぇぞ!クソガキ!!」
「あいたたたっ!ヒドイ!俺に信じさせてくれって言ったの怜治さんなのにぃ~!」
手加減無しに頬を抓られても、笑顔のままの小太郎。
嬉しそうに笑う顔を見て怜治の胸がぎゅっとなった。
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