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元極道の家に突如やって来た少年、小太郎が宇崎家へ来た経緯は、数日前に遡る。
「大学の桜並木も綺麗だけど、ここのも立派だよなぁ。」
律は太い幹に大ぶりな桜の花が満開に咲いているのを見上げながら、曲がりくねった小道をゆっくりと歩く。
空はどこまでも青く、白い雲と薄桃色の花のコントラストが美しい。
そんな絵画のような風景に違和感無く溶け込んでいるのが、木造2階建ての大きな古びた洋館。
これまでに多数の孤児達を育て上げて来た、温か味のある家だ。
「うん、良い天気。今日は洗濯日和だから、皆のベッドシーツでも洗おうかな?」
そう呟き、頭の中で今日一日の目標と計画を立てながら扉を開けた。
「こんにちは~。」
「あらぁ、律君!いらっしゃい!」
入り口脇にある受付兼事務所の小窓から顔を覗かせて出迎えてくれたのは、明るい笑顔の年配の女性。
事務や雑務を担ってくれている彼女はかなりの古株だ。
「今日もお手伝いに来てくれたの?施設長ならたぶん、お庭に居るわよ。今日はお天気が良いから子供達と一緒にお布団干してるわ。」
「あははっ、僕も同じ事考えてました。今日はお洗濯日和だなーって。」
律はそう言いながら、お邪魔しますと軽くお辞儀する。
「雨は降らなかったけど、ここ数日はずっと曇りだったからね。今日は皆でお布団干しのリレーよ。」
「部屋から庭までお布団を担ぐの、子供達には重労働ですよねー。僕もリレーに混ぜて貰おうかな。」
腕捲くりをし、よしっと気合いを入れる律。
ウキウキとしながら庭のある施設裏へと足を向けた。
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