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 がんの手術からもうすぐ五年たつ。検査の間隔が、三か月から半年に一度となり、安心していた矢先のできことだった。 「再発、してます」  新しく担当になった女医の高田(たかだ)が目を伏せてそう言った。  佳奈子(かなこ)は、高田が気に入っていた。自分の身体のことはきちんと把握しておきたい。うやむやにされた方がかえって怖い。高田はそんな佳奈子の気持ちをすぐに理解してくれた。腫瘍マーカーの値を佳奈子に示しながら、きちんと癌の説明をしてくれたのは高田が初めてだったのだ。  悪性の腫瘍だった。ステージⅢの終わりの方です、と、言われていたから再発は手術の時から覚悟していたし、腫瘍マーカーの値がこのところ急上昇していることも知っていた。本を読んで再発には若干の知識もあったから、佳奈子はごく冷静だった。 「先生が手術してくださるんですか」 「いえ、今の状況で手術はできません。化学療法で癌を弱らせてから手術します」  ただし腫瘍の進行が早いから、完治となると時間がかかります。きつい治療になりますよ。高田は佳奈子の眼を真っ直ぐに見て、最後にそう付け加えたのだった。     
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