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差別主義――――確かに彼が俺に向ける視線には、警戒と軽蔑がこもっていた。
「お前、もしかして譲一さんと会ったの?」
緑茶で割った焼酎を飲み干し、怪訝そうに俺と目を合わせる。
「ああ。なんか誤解されてるみたいだけど」
「誤解?」
「俺が日歿堂に入ったのは家の再興とか、御堂家の財産を狙ってるんじゃないかって」
「ああ。俺も利仁も顔合わせるたびに言われるよ。傍系くせにとか、東雲さんを狙ってんだろうとか」
グラスを置き、失笑まじりに呟いた。
「あの人、社長の周りにいる奴は全員、御堂家の財産狙ってると思ってるからなあ」
正直、そこまで疑心暗鬼が過ぎると少し滑稽だった。
が、本人の与り知らない所で、あまり社長の事情を詮索するのも気が引ける。
話題を変えようとしたその時、目の前に座る男は顔から笑みを消した。
「東雲さんが正式に御堂家の当主になったのって、二十歳の誕生日の時だったんだけどさ」
日下部はそこで言葉を区切ると、わずかに声を落とす。
不意に肌寒さを感じた。壁にかけられた時計は九時半を指している。
二人が家に来て、早くも二時間が経っていた。
「家督を継いだあの人が、初めてしたことは何だと思う?」
「初めてしたこと?」
首をひねる俺に、日下部は目を細める。
「義理の親兄弟とその腰巾着を全員、遁走館から追放した」
「追放……?」
「昔はこの館、親戚とか使用人も含めて百人くらいの人間が暮らしてたけどさ。東雲さんがほとんど追い出したんだ」
信頼できる一握りの使用人を残して。絶句する俺にそう言って、空になったグラスに焼酎を注いだ。
十時を過ぎる頃、利仁さんと日下部を竹林さん(兄)が車で迎えに来た。
来客を見送り、片付けを終わらせ、倒れ込むようにベッドに寝転がる。
(もっと突っ込んで聞けばよかったか。常夜村のことも、祖父母のことも……)
利仁さんが置いていった写真を、改めて眺めてみる。
三人の子供に囲まれて笑う母は、記憶にある面影より幾分か若く、明るい表情をしていた。
「ん?」
とっさに目を凝らす。
先ほどは気付かなかったが、鳥居の後ろに隠れるように、小さな女の子が立っている。
妹かと思ったが、三歳児には見えなかった。
体格から察するにもう少し年上の、おそらく五歳から七歳の間くらいだろう。
(あれ? この浴衣って……)
よく見ると色は違うが、母と同じ朝顔の柄の浴衣を着ていた。
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