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食事を終え、会計を済ませようとすると伝票の取り合いになってしまう。
なんとか社長を説き伏せ、食事代を自腹で支払った。
「しかし難しいですね。もし鹿島様から正式に依頼が入った場合……」
帰りの車の中で、タブレットでメールをチェックしながら社長が呟く。
「霊障といっても、発生源の張本人がご存命のケースは初めてです。下手に刺激を与えて、万が一にも詩緒さんの命を損ねることがあってはいけませんし」
そこまで考えてくれるのかと、少し驚いた。
「あの、社長。もし日歿堂で請け負うのが難しい場合、私が個人的にあの部屋を片付けますから」
会社の負担になるようだったら、俺が休日を使って先輩の生前整理を行えばいい。
単純にそう思って提案すると、社長は口をとがらせ、俺をバックミラー越しにねめつけた。
「駄目です。彼岸坂くん、さっきの話ちゃんと聞いてたんですか?」
「聞いてましたけど、今回の場合、万が一先輩に何かあった時の責任とか、ポルターガイストとか、色々と厄介で危険な問題が多いので……」
「いいんです。元々うちが請け負うのは、厄介で危険な案件ばっかりなんだから」
吹っ切れたように言って、上半身をぐっと伸ばす。
二日後、日歿堂に先輩のお父さんから生前整理の見積もり依頼が入った。
「このたびは、お見積もりのご予約をありがとうございます。日歿堂の御堂と申します」
社長が差し出した名刺を受け取り、先輩のお父さんは自分の名刺を返す。
「妻と娘から聞きました。先日はご迷惑をおかけしたそうで、申し訳ありません」
「いえ、お怪我の具合はいかがですか?」
頭に巻かれたネットの包帯が、見た目にも痛々しい。
苦笑交じりに、「大丈夫です」と首を横に振る。
「見た目ほど大袈裟ではありませんので」
意思の強そうな太い眉や黒目がちの瞳、はっきりとした目鼻立ちが先輩とよく似ている。
挨拶と説明を終えると、お父さんは社長と俺を二階に通した。
「ここが、上の娘の部屋です」
扉には、一昨日社長が貼った霊符がそのままになっている。
「くれぐれも気を付けてください」
「ありがとうございます。安全のため、鹿島様は一階でお待ちください」
社長にそう促されると、お父さんは一瞬、物言いたげな表情を浮かべた。
しかし思い直したように「よろしくお願いします」と一礼し、階段をおりてゆく。
「……さて、と」
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