第三章 廃校に咲く花 ~前編~

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生前整理の価格設定も、物品の取り扱いも遺品整理と基本的に変わらない。 片付けたものをどうするか。処理にかかる手間や費用、時間によって料金は変動する。 リサイクルやリメイク、転売、廃棄、寄付・寄贈、場合によっては焚き上げ供養や一定期間の保存など、方法は様々だ。 それらの処遇は完全にケースバイケースで、依頼人によって方針が異なる。 遺品を少しでもお金に換えたいと希望があれば、こちらで物品を仕分けし、リサイクルショップや骨董屋に査定を依頼する。 全て「廃棄」を望まれる場合も、稀にある。 逆に、故人の思い出を形に残したいと言われれることもある。その場合、遺された写真や映像をDVDやフォトブックにまとめたり、遺品のリメイクを提案したりする。 また未使用の衣服や文房具、玩具などを支援機構に送りたい、楽器や個人蔵書を地域の学校や故人の母校に寄贈したいという意向があれば、手続きを代行する。 「こちらの基本価格は、整理したお品物の取り扱い方法を全て当社にご一任いただける場合のお値段なんです。先ほどご説明したように、お品物によっては……」 そういった取り扱い例やオプションの料金については、見積もりの前に一通り説明した。 しかし―――― 「いえ、この金額のプランで結構です」 先輩のお父さんは社長の説明を遮るように、淡々と決定を告げた。 「よろしいのですか? 奥様やお嬢様とご相談なさってから、お返事をいただいても」 「こちらから特に要望はありませんので。廃棄でもリサイクルでも、全て処分はお任せします」 生前整理ではなく、まるで遺品整理の打ち合わせのようだった。 生存の見込みが低いとはいえ、先輩はまだ生きている。けれどもお父さんはすでに、自分の娘を「故人」として扱っていた。 生前整理の日取りと時間を決め、契約書と家宅の立ち入り許可証にサインをもらって鹿島家を出る。 結局お父さんの口からポルターガイストや先輩の話題が出ることは、一度も無かった。 途中で休憩をはさみ、大学病院へ向かう。 病室を訪れた俺と社長を、先輩のお母さんは少し赤い目で出迎える。 ベッドの上には相変わらず、昏睡状態の先輩が横たわっていた。 挨拶もそこそこに、面会室に場所を移し、生前整理の見積もり結果を報告する。 一通り社長の話を聞くと、お母さんは大きなため息を漏らした。 「そうですか。夫がそんなことを……」
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