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思わぬ話の飛躍に、思わず隣に座る社長の顔をまじまじと見た。
「念力って……社長、まさか超能力のことを言っているんですか?」
「はい。サイコキネシスとも呼ばれる、物体に接触することなく、思念の力だけで動かすことが出来る能力のことです」
念力……それは物に一切触れることなく、心で念じるだけで対象物を動かす力だ。
確かに先輩は生身の肉体ではなく、霊体でありながら、部屋にある本や文具を意のままに浮かせて操っていた。
「あれは“ポルターガイスト”じゃないんですか?」
「詩緒さんは霊体ですから、ポルターガイストでもあります。ですがそれだけではなく、彼女は元々そういった能力を持っていたのではないかと思うのです」
おそるおそる先輩おお母さんを窺い―――言葉を失う。
赤く充血した目を見開いたまま、社長を見上げて凍りついていた。
「どうして…………」
かすれた声が、上擦って裏返る。
怯えと恐れ、不安がないまぜになったような視線に、今度は社長が気の毒そうに目を逸らした。
見開かれた目が更に赤く染まり、涙が盛り上がる。
呆然と顔を強張らせたまま、過呼吸のような嗚咽を漏らした。
「彼岸坂くん。鹿島様と二人でお話したいので、少し席を外してもらっていいですか」
「は、はい」
「そうですね、鹿島様さえよろしければ、詩緒さんについていてあげてください。今、病室に誰もいないので」
よろしいですか、と社長に聞かれ、先輩のお母さんは何度も首を縦に振った。
「……お願いできるかしら、哉汰くん」
話の続きが気になるが、やむなく面談室を出て病室に戻る。
扉をノックするが、やはり返事はない。カーテンを開けば、相変わらず昏睡状態でベッドに横たわる先輩が俺を出迎えた。
何本もの管で点滴や人工呼吸器につながれ、極限まで痩せ衰えた小柄な体は二ヵ月前より更に痩せている。
先ほど先輩の部屋で会った彼女と同一人物だとは、到底思えない姿だった。
折り畳みのパイプ椅子に座ろうとしたその時、コンコンと病室の扉が鳴った。
「すみません」
廊下から響いた聞き覚えのある声に、「はい」と返して腰を浮かす。
あわてて扉を開くと、来訪者と目が合った。俺を見ると、驚いたように目を瞠る。
「…………彼岸坂くん?」
それは五年ぶりに再会する、懐かしい顔だった。
「久瀬先輩……」
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