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「引っ越した? 聞いてねえぞ、そんな話」
叔父さんに電話をかけると、やはり予想していた答えが返ってくる。
「やっぱり……」
「高飛びでもしてんのか、あいつ」
「もしそうなら宮城さんの性格上、取材を依頼した相手には新しい連絡先を教えると思うんです」
鹿島さんも五日ほど前に取材の件でメールを入れたが、未だに返事がないと言っていた。
何か、身を隠さなくてはならないような事情があるのだろうか。
「……気をつけてください」
「どうした」
「なんだか、嫌な感じがする。叔父さんは大丈夫だと思うけど、叔母さんを……」
今年の二月に、叔母さんが怪我をした件もある。
あの時は自宅の階段で足を踏み外しただけで、誰かに突き落とされたのではないと、後で本人から聞いて安心したが――――
言いよどむ俺に、叔父さんは少し硬い声で応える。
「分かってるよ。お前のそういう勘は妙に当たるからな」
結局、宮城さんから音沙汰がないまま週末を迎えた。
気になったので、土日休みを使って「千屋荘」に行くことにした。
現地に行ってみれば、何か手がかりが見つかるかもしれない。幸いこの民宿は遁走館から電車で片道三時間という、なんとか日帰りで行けそうな場所にあった。
しかし出発当日、俺は思いもよらない出来事に見舞われることになる。
「おおい兄ちゃん、来てくれ!!」
出かけようとした所を、庭師の千藤さんに呼び止められる。
道路の脇にしゃがみ込んだ千藤さんともう一人、女の人がうつぶせに倒れていた。
「どうしたんですか!?」
自転車を路肩に停め、思わず駆けつける。
「このお嬢さん、急に倒れちまって」
「大丈夫ですか? 今、救急車を」
「だっ、大丈夫です。いつもの貧血……うう……」
意識がないかと思いきや、震える声で返事が返ってくる。
高く澄んだ、どこかで聞いた覚えのある声だった。女性がよろよろと上体を起こす。
(この人、確か……)
ベレー帽から伸びる、淡い薄茶色の長い髪。小柄な痩身。以前、遁走館の前で会った社長の元婚約者の妹だ。
塀に手をついて立ち上がるもよろめき、たたらを踏む。あわてて肩を支えると、小柄な体がフラッともたれかかってきた。
「す、すみません」
「いえ、歩けますか?」
往来にいては危ないので、裏門の石段に座ってもらう。
そうしているうちに、騒ぎを聞きつけたニコルさんが車を飛ばしてやって来た。
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