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【 お礼、あれだけで本当にいいの? 】
かつての同級生と、もう一度話がしたい。
幽霊みたいな存在だった私の希望を叶えるため、日歿堂の人たちは休日を返上し、あらゆる手を尽くしてくれた。
その対価に支払ったものはお金ではない。私が昔、習作のために哉汰をスケッチした絵を数枚、たったそれだけ。
廃校に入るための根回しの数々や、安全確保と監視のために使われた、見るからに高価な暗視カメラ。
彼女たちの惜しみない尽力が、私の絵だけで釣り合うとは到底思えない。
「ええ。こちらこそお礼を言わせてください。今回の件で彼岸坂くんは、自分の能力や過去と前向きに向き合うようになってくれた。詩緒さんたちのおかげです」
そう話す御堂さんは、とても嬉しそうな顔をしていた。
穏やかな表情に、もう一つの質問を切り出すことを少しためらってしまう。
意識が戻る少し前から、御堂さんに聞いてみたかったことがある。けれどそれは、他の人には決して聞かれたくなかったこと。
【 良かった。あと、もうひとつ 】
――――結局、私は本題を切り出した。
【 五年前、私が学校の屋上から飛び降りたって哉汰から聞いてると思うけど。それは半分本当だけど、実は半分嘘 】
「え?」
御堂さんの顔がサッとこわばる。
少し迷ってから、私はこの半年間ずっと、誰にも打ち明けられなかった事実を筆談アプリに打ち込んだ。
【 確かに私は自殺するつもりだった。でも、本当は自分で飛び降りてない。突き落とされた 】
御堂さんは椅子から腰を浮かせ、液晶画面と私をまじまじと見比べた。
「……そんな。突き落とされたって、一体誰に」
今でも五年前、最後に見た光景が信じられない。
屋上から飛び降りるか否か、ギリギリのところで迷っていた私を突き落としたのは……
【 私とそっくりな女の子 】
「そっくり、って……」
【 服装や髪型、体格も顔も、何から何まで双子みたいにそっくりだった 】
もう一人の自分がいる。
五年前、屋上から自分を突き落とした女の子を見て、私は直感的にそう思った。
単に「似てる」という言葉で済ませるには、その子はあまりに私に似すぎていた。
容姿だけでなく、やつれた顔色やボサボサの髪、何より治療のために左腕に巻いていた矯正サポーターまで一緒だった。
何もかもが鏡写しのようだった。
人の気配を感じて振り返った私を、その子はためらいもなく突き飛ばした。
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