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番野百舌が十二年前、妹を殺した犯人かもしれない。
その疑惑を捨てきれない一方、俺はそれを日下部や利仁さんには言えずにいた。
言えば、否応なく二人を巻き込んでしまう。
「おい、少しツラ貸せ」
スマホを前に迷っていたその時、聞き覚えのある低い声が頭上で響く。
あわててブラウザを閉じ、一体どこのチンピラかと顔を上げれば――――目の前に立っていたのは社長のお兄さんだった。
御堂譲一というフルネームを思い出すまで、少しタイムラグが空いた。
「……何か用ですか?」
「お前は馬鹿か? 用があるから呼んでるんだろうが」
傲然と言い放ち、冷ややかな一瞥をこちらに投げかけてくる。
相変わらず居丈高な態度にイラッときて、無視を決め込もうとした、その時。
「東雲の結婚のことだ。お前にとっても悪い話じゃない」
「!」
そう付け足された言葉で、とっさに足を止めてしまう。
他人に聞かれたくない話。
御堂譲一はそう言って、俺を送迎車に乗せ、駅前のグランドホテルに連れてきた。
「ここって……」
そびえ立つビルのエントランスに掲げられた看板を見上げ、絶句する。
ホテル・グランドリバー緑青。
偶然か否か、奇しくもそこは番野百舌が経営するホテルのひとつだった。
立ち止まった俺を、御堂譲一は怪訝そうに振り返る。
「なにモタモタしてるんだ。さっさと行くぞ」
素っ気なく吐き捨て、さっと踵を返す。
少し迷ってから、俺は彼の後を追ってホテル・グランドリバー緑青のロビーに足を踏み入れた。
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