第四章 神隠しの宿  ~前編~

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番野百舌が十二年前、妹を殺した犯人かもしれない。 その疑惑を捨てきれない一方、俺はそれを日下部や利仁さんには言えずにいた。 言えば、否応なく二人を巻き込んでしまう。 「おい、少しツラ貸せ」 スマホを前に迷っていたその時、聞き覚えのある低い声が頭上で響く。 あわててブラウザを閉じ、一体どこのチンピラかと顔を上げれば――――目の前に立っていたのは社長のお兄さんだった。 御堂譲一というフルネームを思い出すまで、少しタイムラグが空いた。 「……何か用ですか?」 「お前は馬鹿か? 用があるから呼んでるんだろうが」 傲然と言い放ち、冷ややかな一瞥をこちらに投げかけてくる。 相変わらず居丈高な態度にイラッときて、無視を決め込もうとした、その時。 「東雲の結婚のことだ。お前にとっても悪い話じゃない」 「!」 そう付け足された言葉で、とっさに足を止めてしまう。 他人に聞かれたくない話。 御堂譲一はそう言って、俺を送迎車に乗せ、駅前のグランドホテルに連れてきた。 「ここって……」 そびえ立つビルのエントランスに掲げられた看板を見上げ、絶句する。 ホテル・グランドリバー緑青。 偶然か否か、奇しくもそこは番野百舌が経営するホテルのひとつだった。 立ち止まった俺を、御堂譲一は怪訝そうに振り返る。 「なにモタモタしてるんだ。さっさと行くぞ」 素っ気なく吐き捨て、さっと踵を返す。 少し迷ってから、俺は彼の後を追ってホテル・グランドリバー緑青のロビーに足を踏み入れた。
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