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『人間だァ!?』
猫又やなまはげが、ギョッとした顔で振り返る。他の妖怪たちも同様に、東云に驚愕の眼差しを向けた。
『しかも若い男だと?』
『馬鹿な、そんな物を持ってきた者など見なかったぞ!』
大広間がざわめき、疑いの声が飛び交う。
東云はくつくつと押し殺した声で笑い、俺がかぶっていた鬼の面を、勢いよく引き剥がした。
「持ってるさ。こいつが現物だ」
『!』
妖怪たちの視線が、一斉に俺へと突き刺さる。露わになった俺の顔を見て、千屋も驚いたように目を見開いた。
『あいつァ……人くさいと思ったら、どおりで』
猫又が悔しそうにうそぶく。その隣にいた僧衣の巨人は、好奇の色を顔に浮かべ、じっと俺を見下ろした。
『この人間、我々の姿が見えておるのか』
底光りする無数の目に、知らず知らずのうちに壁を背に後退っていた。
妖怪たちが襲い掛かってくる様子はない。だが先ほど東云に向けた視線とは、明らかに違う。
いずれも鼠を前にした、猫のような目……捕食者の目をしていた。
『他に、何か掛ける奴は? ないなら、このお侍さんが落札となるが』
素っ気なく問われた妖怪たちが、しんと静まり返る。
千屋は狐面の女とちらりと顔を見合わせ、小さく頷いた。
『……いないみたいだね。じゃあ、決まりだ』
東云が鬼の面をなまはげに突き返す。なまはげはまだ酔いが回っているのか、豆鉄砲をくらった鳩のような顔で、突き返された面と東云、俺を交互に見比べ、首をかしげた。
「行くぞ」
低く呟くように言って、東云は上段の間に向かって歩き出す。俺もその後を追った。
妖怪たちは誰からともなく後退り、東云と俺が進む行き先を、譲るように空けてゆく。
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