第四章 神隠しの宿  ~中編~

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『人間だァ!?』 猫又やなまはげが、ギョッとした顔で振り返る。他の妖怪たちも同様に、東云に驚愕の眼差しを向けた。 『しかも若い男だと?』 『馬鹿な、そんな物を持ってきた者など見なかったぞ!』 大広間がざわめき、疑いの声が飛び交う。 東云はくつくつと押し殺した声で笑い、俺がかぶっていた鬼の面を、勢いよく引き剥がした。 「持ってるさ。こいつが現物だ」 『!』 妖怪たちの視線が、一斉に俺へと突き刺さる。(あらわ)わになった俺の顔を見て、千屋も驚いたように目を見開いた。 『あいつァ……人くさいと思ったら、どおりで』 猫又が悔しそうにうそぶく。その隣にいた僧衣の巨人は、好奇の色を顔に浮かべ、じっと俺を見下ろした。 『この人間、我々の姿が見えておるのか』 底光りする無数の目に、知らず知らずのうちに壁を背に後退(あとずさ)っていた。 妖怪たちが襲い掛かってくる様子はない。だが先ほど東云に向けた視線とは、明らかに違う。 いずれも鼠を前にした、猫のような目……捕食者の目をしていた。 『他に、何か掛ける(やつ)は? ないなら、このお(さむらい)さんが落札となるが』 素っ気なく問われた妖怪たちが、しんと静まり返る。 千屋は狐面の女とちらりと顔を見合わせ、小さく頷いた。 『……いないみたいだね。じゃあ、決まりだ』 東云が鬼の面をなまはげに突き返す。なまはげはまだ酔いが回っているのか、豆鉄砲をくらった鳩のような顔で、突き返された面と東云、俺を交互に見比べ、首をかしげた。 「行くぞ」 低く呟くように言って、東云は上段の間に向かって歩き出す。俺もその後を追った。 妖怪たちは誰からともなく後退(あとずさ)り、東云と俺が進む行き先を、譲るように空けてゆく。
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