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「この際、奥様に本当のことを伝えて、杉内様のお気持ちを話すというのも一つの手段ではないですか?」
隠すことも誤魔化すことも出来ないなら、正直に話して当たって砕けるくらいしか思いつかない。
夢枕に立つなり、俺の体を借りて手紙を書くなり、方法はある。
そのための仲介くらいは、引き受けてもいいと思った。この憎めない狸親爺に、少し情が移ったのかもしれない。
「全部話す、か。ええ案やけど、やめとくわ。子供が出来へんかったこと、二美子は結構引きずっとるみたいやし」
杉内氏が小さく歪める。
そこで俺はやっと、あまり表に出さないだけで、彼も依頼人に対して相応の罪悪感を背負っているのだと気付いた。
杉内氏に別れを告げ、事務所に戻るのかと思いきや、社用車は事務所の方向から少しそれて、俺が通っていた大学に向かった。
裏門に停車すると、見覚えのある人影が近寄ってくる。
それはこの会社に俺を紹介した男だった。
「日下部……」
「おう、久しぶり。少し痩せた?」
後部座席のドアが外側から開くと、すかさずA4サイズの茶封筒を差し出される。
反射的に受け取ると、社長が助手席からこちらに手を伸ばしたので、そのまま手渡す。
「これ、頼まれてた資料」
「ありがとう、祐くん。利仁くんにもお礼を言っておいて」
「うん。東雲さんもお疲れ様」
じゃあ、とドアを閉めて日下部は大学に戻って行った。
対向車が通り過ぎるのを見計らい、老秘書もワンボックスを発進させる。
社長はさっそく茶封筒の中身を取り出し、目を通し始めた。カサカサと、紙をめくる音が車内に響く。
静まり返った車内で、何となく手持ち無沙汰になり窓の外を眺めていたその時、助手席から「やっぱり!」と素っ頓狂な声が響き渡った。
社長が勢いよく書類から顔を上げる。
「おかしいとは思っていたんです。どうしてあの一角だけ腐蝕していたのか。雨漏りなら押入れ全体が黴(かび)るはずですし、普通、押入れに水気のあるものはしまわないでしょう」
「……確かにあの一角に収納されていたのは、ゴルフ用品や衣類でした」
老秘書の言葉に、社長が頷く。
確かに、あの部屋はやけに黴臭かった。
他の部屋はそうでもなかったから、日当たりが悪いせいだと思っていたけれど――――
「部屋の中に、カビや腐蝕の要素はなかった。おそらく、元凶は床下です」
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