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第一章 終活のすすめ ~後編~
「頭を潰すか、体を二つに裂くか、好きな方を選べ」
目の前の男は今、何と言ったか。
体を裂くだの頭を潰すだの、あたかも殺すことが前提のような言葉だ。
しかし、社長は何と言っていた?
“一体誰に、この御方を祓う資格などあるのでしょう”
一方的に相手を祓って終わるのではなく、話をして、双方にとって最善の方法を模索したい。
人とそうでない者たち、双方が納得できるよう手を尽くしたいと、確かに彼女は言っていたはずなのに。
なのに、これではまるで――――
『……貴様、鬼憑きか』
低く唸うなるような声で、はっと我に返る。
「で、選んだか?」
獰猛な笑みを浮かべ、社長……男は黒く朽ちたしめ縄を踏み、井戸に歩み寄った。
『侮るな、憑霊!』
床下の暗がりに、血のように赤い目玉がカッと光る。背中の赤い斑紋が、ひときわ鮮やかに浮かび上がった。
瞬く間に、目鼻を刺すような死臭が臭気が書斎に充満する。大井守の体から、黒い靄が立ちのぼった。
それをわずかに吸い込んでしまった瞬間、こめかみに鋭い痛みが走る。
「……っ!」
思わず目を閉じたその時、背後で押し殺したうめき声が響いた。
「う、うう……」
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