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がたん、と、床の缶ビールが倒れた。
「いだっ!……やめ、御堂ッ」
「やめない」
ぐり、と御堂の指がまた彼を圧迫した。大きな体がびくりとはねる。
「あっ!そこ、だめ……」
「いい声だな、チカ」
「チカってゆーなぁ…」
床に転がってぼろぼろ涙をこぼす幼なじみを眺め、御堂は悪い笑みを広げる。
自分より体格の良い男が、自分の手で泣くさまは、なんとも嗜虐心をそそる。抵抗するから両手を縛ってソファーの脚へ括っているのもあるかもしれない。
勿論、彼に悪意は無い。
「じゃあ俺のことも下で呼べよ」
「……」
何で目を逸らす。
機嫌を傾けた御堂は、サイドテーブルへ手を伸ばした。
「これが見えるか」
「お前それ……何で持ってんだ」
「別に、おかしかないだろ」
先端が丸く磨かれた、木の棒。暴れる脚を抱え、指の代わりにあてがうと、ぐいと押し込んだ。
「っあああ! 痛、ええぇ!」
「効くだろ?」
「やめ……やめろそれえぇ」
「泣くなよ。気持ちいいだろう」
「泣いてねえよ!」
顔を真っ赤にして言われたところで、気持ちいいのは否定しないのかと更に笑みがこぼれるだけだ。
「やだっ!ゆびっ!お前の、指のがいい……」
腕で顔を覆い、彼が声をあげたとき。
マンションの玄関扉が開く音がした。
「あぁ、谷くんがやってきたか」
「や、ちょ……お前、解けよ。こんなん谷君に見られたく無」「ただいま帰りましたー!」
ご機嫌な若者の声が、ドアの向こうから響く。
「や、御堂ぉ!」
「え?何えろい。お取り込み中っスか?」
「いや、君も混ざるといい」
「いいんですかぁ!?」
勢いよくドアが開き、コンビニ袋を提げた、何故か満面の笑顔の大学生が現れた。
「あ、店長」
しかし、床に転がるバイト先の上司と、その足を抱えるオーナーの様を見て。
しおれるように、彼の笑顔が引っ込んだ。
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