炎の宴

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 三日月の夜だった。  ギシ、ギシと、何か大きな車輪の付いた物体が動いていた。その物体には覆いが掛っている。  馬に引かれ、人間に押されて動くそれは、ゆっくりと目的地に向かう。そして、それは一台だけでは無かった。  やがて、小高い丘の上に来ると、眼下に村が見えた。村は、数百戸の民家が点在し、まだ灯りがともる所が多かった。おそらく、その中では、家族が楽しい一時を過ごしているのだろう。  村の様子を窺った彼らは、牽いて来た物体の覆いを外した。それは、移動式の投石機だった。  人夫が、力を合わせて綱を引っ張る。すると、巨大な振り子式の錘が持ち上がって行った。振り子式の錘の反対側には投石機の腕の部分が伸びている。その腕の先端には、発射物を置く台が有り、既に石がセットされていた。石には、油を染み込ませた縄が巻いてある。それに、火が付けられた。  小高い丘の上で、二十個の火の玉が辺りを照らす。それは、村を脅かすかのように夜空を赤く染めた。 「発射!」  この掛け声と共に、振り子式の錘は解放された。轟音と共に、地面に向かって勢いよく落下する。錘と振り子の遠心力は、投石機の腕に伝わった。腕は、強烈な風切り音をあげて撥ね上がる。そして、火の玉を村に向かって投げ込んだ。
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