炎の宴

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 二十基の投石機から投げ出される火の玉は、次々と村に落下して行った。  あちこちに火の手が上がり、村全体が暗闇の中に浮かび上がった。  振り子式の錘を引き上げ、石をセットする。次の発射の準備だ。  その時、不幸な事件が起きた。  投石用の石をセットする係りの男の服が、石と台の間に挟まって抜けなくなっていたのだ。 「火を付ける前に気がついて助かった」  その男は、そう思っていた。石は、二人でセットする代物で、一人では動かせない。不運な男は、相棒に声を掛けようとしていた。その時、別の所で声が上がった。 「発射!」  次の瞬間、不運な男は空を飛んでいた。  不運な男は、村に向かって飛んで行った。  村は、全体が燃え盛っていた。  彼は、まるで自分が炎に飛込む虫に思えた。  上空から、味方の兵士が村を取り囲むように動いているのが見えた。その姿は、まるで蟻のようだった。  兵士の数は三万人。この大部隊が、たった千人弱の小さな村を襲うのだ。だが、それだけの兵力を使うには訳があった。  さて、不運な男は、味方の遥か頭上を飛び越え、村の中に入っていた。  炎上する家。逃げ惑う人々。叫び声が四方から聞こえ、まるで地獄を見るようだった。  そして、不運な男にも終わりの時が迫っていた。彼の進行方向に教会が建っているのだ。  不運な男は、グングン教会に近付く。そして、教会の鐘楼にある大きな鐘が、すぐ目の前に迫った。 〈グワ~ン、グワ~ン〉  村の中心に位置する教会の鐘が、けたたましく鳴る。だが、村の人々はそれを気にするだけの余裕がなかった。  なぜなら、何の前ぶれも無く、空から火の玉が降って来たからだ。  家を押し潰し、人を押し潰し、焼き払う。  火の玉に押し潰された母親。その側で泣きじゃくる子供。焼け死んだ子供の側で放心状態の母親。逃げ惑い、叫ぶ人々。  地獄のようなこの光景も、まだほんの序の口にしか過ぎなかった。本当の恐怖は、火の玉の後にやって来た。  飛来していた火の玉が、ピタリと止まった。逃げ惑う人々は、少しホッとした。 「ぎゃあ~」 それも束の間、突然の悲鳴が村全体に響き渡る。紅い鎧に身を固めた兵士が、村に侵攻を始めたのだ。
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