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 壁のほぼ一面全部が窓になっているこの部屋から見える都心のビル群の夜景もなかなかにきれいで、もしも今、いちばん逢いたいと思っている人がここにいたら、あの時のように言葉も交わさないまま、ただずっと一緒にこの景色を眺めていられる気がする。  今、いちばん逢いたい人。なんて、本人の前で言えたことがない。 その彼に明日、3週間ぶりに逢える。  今月のはじめに彼がうちに来た時、「月末は本社に出張だから1週間いない」と告げると、「帰ってきたら、連絡して」と言っていた。さっきまで俺の体がそこにあったことを示すシーツのくぼみを指でたどる彼の、薄いケットから出ている白い肩と首筋のあたりにくすんだ紅い痕をいくつかつけてしまって、夏じゃなくてよかったなと思ったんだ。確か。  ヘッドレストと背中の間に無駄にデカい枕を押し込んで座る位置を確保してから、スマートフォンを操作した。いつも、「もしもし」と最初に低い声で言うのはこっちで、俺からの着信だとわかっているからだろうけど、彼はたいてい、「はい」とか「なに?」と話し始める。けど、今日は違った。こっちが口を開くよりも先に、「もう、帰ってるの?」と、弾むような声が耳に飛び込んできた。 「いやいや、ごめん。まだ東京。そっちに帰るのは、明日の夜」  瞬間、あっと息を呑むような、声になるようでならないほんの一瞬の沈黙の後に、 「何それ! ごめんって」  それだけ言うと、電話の向こうでいつもより半音高い笑い声が上がる。     
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