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タクシー怪談
午前零時。
タクシーは、コールタールを流したような、ねっとりとした闇をひた走る。
ふと、歩道に目をやると、霊園の前で手を上げる髪の長い、白いワンピースを着た女が立っていた。
タクシーは静かに、その女のわきに車を停め、ドアを開ける。
「どちらまで?」
乗り込んで来た女に尋ねる。
「確かめたいことがあるんです。しばらく道なりに走ってもらえますか?」
女は不思議なことを言って来た。
ドライバーの男は、メーターをあげると
「わかりました。」
と、タクシーをゆっくりと発進した。
女は始終、下を向いてスマートホンを覗き込んでいた。
そのボンヤリとした青白い光が、いっそう俯く女の陰鬱な顔を白く浮かび上がらせていた。
女の道案内を元に、ドライバーは、右へ左へとハンドルを切って、ある交差点に差し掛かったところ、女が急に車を停めるように言うので、ドライバーは交差点に差し掛かる前に、左へ車を寄せて停まった。
「すぐに、戻ってきます。そのまま待っててください。」
女にそう言われ、ドライバーはそのまま車の中で待っていた。
女は、歩道に降り立つと、ユラユラと頼りない足取りで、交差点へと歩き出した。
しばらくすると、女は引き返してきた。
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