1、「テクノ刑事(ポリス) マイナス30度の登場編」

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1、「テクノ刑事(ポリス) マイナス30度の登場編」

 昭和58年(1983年)12月12日。  21世紀も、平成も、どんな世の中か誰も知らない  日本経済はバブル前哨戦で上昇中、街はクリスマス景気でもり上がっていた。  誰もが黄金の80年代を感じていた頃。  警視庁三田警察署の捜査課一課刑事の巡査・坂本時生<さかもとときお>(27)は、西麻布のカフェバーでニューオーダーの最新ヒット曲「ブルー・マンデー」の規則的なメロディーを聞きながら、マガジンハウス系のモデルたちと戯れていた。  80年代に入って、六本木からも、渋谷からも離れた、西麻布交差点に流行に敏感な大人達を対象とした深夜営業の店がひっそりとオープンし始めた。警察官にならなかったらスタジオミュージシャンになりたかった坂本にとって、そこはむさくるしい警察署よりも心地よい空間だった。    突然「ポケベル」がBEEP音を発した。 「51518451」(コイコイハヨコイ)の表示を見て、時生ときおはワンレングスの美人姉妹に「これは大変だ、じゃあね」と別れを告げると外苑西通りに止めていたシトロエンBXに飛び乗った。  シトロエン特有の複雑なハイドロニューロマティックサスペンションは船のようにゆったりと沈み込み、ボビン式デジタルメーターがクルクル回る。BXは今年発売されたばかりのニューモデルで、直線基調のデザインはかのランボルギーニ・カウンタックをデザインしたガンディーニだ、全てが新しい時代を感じさせる。  やがて東京タワーが見える交差点を右折し三田署への直線道路に入ると、カーステレオからは ヒット中のカジャグーグーの「君はToo Shy」が流れた。これぞエレクトリック・ポップスという軽さだが、ローランドシンセ特有のパリパリした音とシモンズドラムの腰のないリズム音が心地いい。 「どこに行ってたんだ」  署に戻ると刑事課長の倉旗和久くらはたわくは刑事らしくない、坂本の全身真っ黒ダブダブのコムでギャルソンのスーツ姿を見て言った。 「すぐに高野と組対の応援に向かってくれ」  倉旗は部屋の隅のデスクにいた新任の刑事・高野顕臣たかのあきおみを指さした。高野はろくに経験もないのに先月刑事抜擢を受けたばかりのゴルフ部出身の男、昔の警視総監の孫らしい。 「ヤレヤレ」と時生は呟くと、駐車場の覆面セドリックパトの助手席に座った。
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