4、「鬱った刑事」

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 シーバーから指令が入って伝原は気を取り戻した。 交渉人の大山は、犯人を呼び出すことに成功したようだ。  犯人確保の瞬間が最も危険だ。   スコープの向こうの大山は犯人を友人のように迎えると、スタンバイしている特殊班、警察官に向かって手を上げて何かを言っている。  それは苛立っているような怒っているような絶望しているような不思議な声だった。  スコープを通して伝原は、一瞬交渉人の大山と目があった気がした。  そしてそこに見てはいけないものを見てしまった。  人の姿をした死神を・・・  その時、鬱刑事・大山の「鬱」が200m離れた伝原に感染した。  その日から伝原の心の中には常に大きな黒い雲が居座り続けた。  機動隊員という究極の団体行動、体育会組織の中で、鬱はあってはならない病気で、伝原自身も暗雲を振り払おうとトレーニングに励み、夜は深酒で寝ようとした。  しかし、振り払おうとすればするほど、今まで忘れていた様々なネガティブファクターが記憶の中で立ち上がり、伝原の思考を襲い支配し始める。   やがて伝原はビル降下訓練中に、割れるような頭痛と全身の痺れの中で意識を失い落下し、医者の治療を受けることになる。     
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