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4、「鬱った刑事」
機動隊の特殊班狙撃手のエリート伝原美登は、その日立てこもり犯による事件の人質解放の擁護指令を受け同じ班の仲間と現場に向かった。
犯人が人質をとって立てこもるアパートの一室を、指揮車からの指示を受けて擁護、狙撃することが伝原の役目だった。
予定されたアパートの反対側にある立体駐車場の一角から、ライフルのスコープごしにアパートを伝原は静かに注視する姿勢をとった。
やがて、指揮車から「刑事が犯人との交渉に入る」との連絡が入った。混乱状態の犯人は突然の攻撃行動に出る可能性が高く、狙撃手は最も緊張する。
しかしライフルのスコープごしに見える「警視庁刑事 交渉人・大山考男」の姿は今まで見たどの警察官とも違う雰囲気をまとっていた。
一歩一歩、死刑台におもむくような重い足取り。目的地を探すような虚ろな目線。
現場の状況を広く見ないといけないのだが、伝原は大山から目が離せなくなった。
犯人と何か会話をしているようだが、交渉人の大山には何の気負いもスコープ越しに感じられず。
普段は冷静な伝原には珍しく、呼吸が乱れて冷や汗が流れて来た。
「狙撃1班スタンバイ」
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