最終章 貴方と溽暑にまどろむ

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「なんだよー、お前も隅に置けないな」 背後から覗き込んでいた梶原はビールを持ったまま昌弘の隣に座り込むとニマニマとした緩いニヤケ顔でそう言ってきた。 「は? 」 「は?ってこのミドリちゃんて子、お前の彼女なんじゃねぇの? 」 そう言いながら昌弘が手にしていた携帯電話を指差しながら梶原が笑う。 その言葉に昌弘は一度梶原を見据えれば「はあ」と大きく溜息を吐いた。 「...ちがうから...この子は家庭教師で行ってるアルバイト先の生徒。それからミドリじゃなくてリョク.な」 そう伝えれば携帯電話は画面を伏せるようにして卓上に置く。 「へー、お前カテキョとかやってたんだ? なかなか夕方捕まんねぇはずだよ」 笑う梶原に緑の名前を訂正できたか確認はできなかった。 「夕方って、何か用事か? 」 問いかけながら卓上に並ぶ食事を見回せば、それはそれは見事に油ものばかりが並んでいた。 チラリとサラダ類を探せば少し離れた女子達の卓上にあり昌弘は断念すると目の前の唐揚げに箸を伸ばす。 「いや、飲み会誘おうっていつも探しててな」 唐揚げを箸に取りつまむ隣で梶原はビールをグイグイと飲んでいっていた。 その姿を見ながら、更に梶原の奥に見えるワキャワキャと騒ぐ集団が目に入る。 「...悪い、俺こういうの少し苦手かも。アルバイトもあるしな」 「そっかー。まっ、大人数が嫌なら仕方ないしな。つか、カテキョってしょっ中あってんのか? 」 飲み会に関して、想像よりもあっさりと引き下がった梶原の態度に安心していればそのまま家庭教師の事を聞かれた。 「普通のやつは知らないが、俺は週三日」 「ふーん、ハードだよな...」 ポツリと漏らした梶原の言葉に違和感を持つ。 「そうか? 別に一軒だけだし、そんなに苦じゃないけどな」 派遣されているような場合はよくわからないが少なくとも雇用主の透は昌弘の事も考えてくれているためにやり易い。 「違くて! 西野じゃなくてミドリちゃんがだよ。 週三日って事は受験生って訳でもないだろ? なのに、花の高校時代を勉強漬けとか嫌だろうなって事だよ」
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