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「...あの、すみません。ここの二年生で西野昌弘さんを探してるんですが知りませんか? 」
突然声をかけられたにもかかわらず、その人物が高校生であると制服を見てわかれば訝しむこともなく皆気持ちよく答えてくれた。
「二年? 西野? 悪いな、俺三年だし知らないなあ。...もしかして兄貴を探しにきてるのか? 見つかるといいな」
そして、弟が兄貴を探しにきていると間違えられ応援される。
特に昌弘の居場所を知る人物では無かった為にその誤解は訂正しないでおいた。
「こっちこそすみません。ありがとうございます」
簡単に礼だけ言ってペコリと頭を下げれば手を振りながら去っていく男性。
先程から学生達に声をかけるもなかなか西野昌弘個人の知り合いまで辿り着けない事に緑は驚いていた。
『大学ってデカすぎだし...はあ、まーくんの学部とか知ってたらもう少しスムーズだったんだろうな』
学生達を捕まえては何度も繰り返した質問に対して答えが一向に出てこない為に挫けそうになってしまう。
しかし、諦めるわけにはいかないと己を奮い立たせてまた学生に声をかけた。
「西野昌弘? ごめんね分からないわ。多分私とは学部が違うのかも...お兄さんかしら? 見つかるといいわね」
「...いえ、こっちこそすみません。ありがとうございます」
同じ答えを何度も繰り返され、同じだけの礼を言う。
通り過ぎていく私服の学生達が一人毛色の違う制服姿の緑を見ていく。
『声かけて、聞かなきゃ』
そう思うも一向に進まない捜索に焦り始める。
俯く緑は自分の足を見ながら辿り着かない昌弘を思うとジワリと涙がこみ上げてきた。
『顔を上げて、声かけろ、俺っ! 』
己を叱責しながら、その片方では『またまーくんを知らない人だったら』と萎えかける。
動かない足に唇を噛み締めていた緑にその声は突然聞こえてきた。
「もしかして西野を探してる高校生ってお前? 」
その声に俯いていた顔を上げれば、金色に近い茶髪の少しだけ軽そうな男が珍しいものを見るような目で立っていた。
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