最終章 貴方と溽暑にまどろむ

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広大な敷地を昌弘の友人だと言う梶原について歩いていけば既にどこに門扉があったかも分からない程奥まった校舎に入っていく。 「広いからもう場所とか全然分からないじゃないのか? 」 まるで見透かされるようにかけられた話題であったが緑にとっては重要でない。 「大丈夫っすよ」 緑にとっては昌弘の元に辿り着けるかどうかが問題であり、大学の広さなどゴールがわかってしまえば問題にならないのだ。 そんな緑の隣に並んで歩く梶原。 軽薄そうな男は態々大学まで探しにきた生徒に興味津々なようで。 「ところでリョクちゃんはさ、西野の生徒なんだろ? 」 「あいつって、やっぱりお堅い先生なわけ? 」 「つうかリョクちゃん、週三日カテキョとか怠くないのか? 」 道中ずっと質問しっぱなしである。 緑はピタリと足を止めると、自然と梶原も足を止め怪訝な顔をして緑を見た。 「リョクちゃん? 」 「あの、ちゃん付けいらないんで....浅井って呼び捨...」 「んじゃ、緑って呼ぶわ...んで、緑は生徒なんだろ? 今日はなんか急用なのか? 」 緑の言葉を遮るように被せてきた梶原の言葉。 あまり人の話を聞きそうにないタイプだと判断すればそれ以上言うのを諦めた。 急用かと聞かれ少し考えてみたものの、言いようが定まらない。 「....ちょっと」 「おいおい、折角連れてってやってるんだし理由くらい教えろよ」 そう言うと、またもや肩を組んで顔を近づけてきた梶原。 その手からまたもや逃れようとするりと抜け出した。 「.....大学が忙しいからってずっと家にきてないんです」 「忙しい? 」 不思議そうな顔をする梶原に既に想像がついていた答えが緑の中で浮かび上がる。 「今の時期なんて別にそんなことねぇけどな...って、おい、もしかして気分悪いのか? 」 やはり思っていた通り大学が忙しい訳ではないのだ。 本当に忙しくとも別に電話だって取れないことはないだろうし、メールだってできる筈である。 しかし現実は一週間も緑には音沙汰なしで、全ては透との連絡のみ。 そんな事を思い出してしまえば緑はつい顔を歪めてしまった。
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