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「大丈夫か? 」
立ち止まってしまった緑に声をかけてくる梶原。
その声には多少の焦りがあり、『こんな軽そうな男でも心配してくれるんだな』と大層失礼な事を頭の隅で思った。
「すんません。大丈夫なんで...連れて行ってください」
昌弘による拒絶の意思が垣間見えて辛くなるも、『ここまで来たんだ』と足を動かそうとする。
「わかった。ほら、あと少しだからな」
そう言うと梶原は緑の手を掴み歩き始めた。
「ちょっ...手っ」
「倒れられても困るから我慢しろ」
そこから更に歩き続ければ漸く一つの扉の前で立ち止まる梶原。
自然、緑もその動きに習い立ち止まる。
「西野がいるのここだぜ」
「まーくん...のいる..トコ? 」
見上げた緑の瞳は質素な何の変哲も無い扉。
しかし、その先に昌弘がいる事を考えればつい緑の胸は高揚してしまい、気づかないまま緑は昌弘の名を常の呼び名で呼んでしまっていた。
「......」
その呼称に梶原が隣の緑を見下ろすも緑の瞳にはその扉しか写っておらず、気づかれないままその姿を隣で見ている。
が、しかしずっと佇む訳にもいかず梶原は緑の手を掴んだまま扉を雑に開け放った。
「西野っ」
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