最終章 貴方と溽暑にまどろむ

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梶原が扉を開けるのを手を掴まれたまま後ろで見つめる緑。 梶原の体が障害となり中が見えなかったが掴まれた手をゆっくり引っ張られるとその部屋の内側へと足を踏み入れ探し求めた人物を見つけた。 「...あ...あ..」 一週間ぶりのその姿に声が震えそうになる。 しかしそれを悟られまいと声を押し殺した。 「梶原か? 何かよ..う...」 椅子に座り机に向けられていた視線が言葉と同時に入り口を捉えればこの場所にいる筈のない緑の姿に言葉が途切れた。 「りょ..く? 」 「っ....」 一週間ぶりに呼ばれた名前に胸の中で歓喜が渦巻いてしまい泣き出しそうになる。 必死に堪える為に口を一文字に固く結び緑は己が落ち着くのを待った。 「...なんで、緑がここに」 そう言って顔を顰めた昌弘。 拒絶の意思を示され、緑はビクリとするもここまでやってきた目的を思い出す。 『...まーくんに話すんだ』 「......あ...あの..お.れ」 少しでも気を抜けば溢れそうな涙を落とさない為にどうしても声が小さくなってしまっていた。 「....帰れ」 しかし返ってきた言葉は無情なもので。 「ここは部外者以外立ち入り禁止だ」 そう言うと机に視線を戻した。 「....まーくん」 しかし、その光景を一部始終静かに見ていた梶原が突然大きな声を出す。 「って、おいおいおい! 何だよ、話くらい聞いてやれよっ! 緑は態々ここまでお前に会いに来てんだぞ? 」 その声に緑は隣の梶原を見上げる。 昌弘もまた視線を上げ梶原へと目を向ければその瞳は梶原本人ではなく、並ぶ二人の中央に位置する梶原に掴まれたままの緑の手へと移動した。 「チッ.....」 瞬間、立ち上がり勢いよく二人の元までやってくれば昌弘は掴まれた手を離すように二人を引き離しそのまま梶原を外に追いやる。 「ちょっ...何やって、おいっ」 「緑をここまで連れて来てくれたことには感謝する。けど、後はこっちの問題だから」 そう言うと勢いよくバタンッと派手な音を立てて扉を閉めるとカチャリと施錠した。
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