269人が本棚に入れています
本棚に追加
一文字に結ばれていた唇が開くと辿々しく昌弘へと話しかけて来た。
「....あの...い..忙しいのに.わ..わりぃな」
「......」
こちらの様子を気にしながら話しかけてくる緑に対して、昌弘は声を出せない。
今声を発してしまえば、とてもじゃないが冷静な言葉をかけれそうにないのだ。
「あ...あのさ..まーくんまだ家には来れないのか? 」
答えない昌弘に対して、それでも何とかコミュニケーションをとろうと話しかけてくる緑。
しかし、黙ったままの昌弘。
緑はその空気に耐えられないのか、焦るように次々に話しかけてくる。
「お...俺..そ..その、わかんねぇとこあるから..まーくん来てくんねぇと..進まねぇじゃん..」
「.......」
それでも答えない昌弘に緑は顔を歪めると体の奥から絞り出すような声で呟いた。
「...た...頼むから来いよぉ」
歪ませた顔には必死に涙が落ちていかぬように堪えた瞳があり、唇を噛み締めている。
その姿をジッと見ていれば、緑が一歩近づく。
「...まーくん...お願いだから」
と、昌弘の腕へと緑は己の指先を伸ばして来た。
白い指先が昌弘に触れそうになった時、つい叩いてしまった。
瞬間、緑の顔に浮かんだ悲痛な面持ち。
あの日と同じような状況に自分でも嫌気がさす。
しかし、あの時に似た状況は昌弘の中でも一気にフラッシュバックでも起こしたようにその時の感情が蘇る。
押切忍と関係があったと聞かされた時に猛烈に感じた負の感情。
ドロリとした存在を内側で感知してしまえば、努めて冷静さを保っていた昌弘自身が揺らぎ気づけばポツリと漏らしていた。
「...そうやって俺じゃなくてあいつに泣きつけばいいじゃないか....」
最初のコメントを投稿しよう!