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緑が蹴った机を一瞥すると、もう一度振り向き冷たい声が緑に対してかけられる。
「おい。大学の備品に手を出すな」
「うるさいっ! ちゃんとはなし聞けよっ! 」
瞳からはボロボロと涙が溢れ、頬はその落ちてくる涙で濡れてしまっている。
興奮しているのか顔も赤い。
釣り上げた瞳はそのままに昌弘の言葉を待たずに緑が言い放つ。
「俺は...俺は何度も言ってたけど、あんたが好き。あんただけが全てで、あんただけがいればいいんだよ」
「.....」
その様子をじっと静かに見つめる。
昌弘から何の返事もない事に気づくと更に続けた。
「俺はあんたと繋がれるんならってオヤジとも寝ちまうくらいにはイかれてるし...頭だっておかしいかもな」
「へへ」と泣き笑う緑は浅井家で見ていたものに近く、昌弘の中で少しだけ冷静になった。
「それにシノとも寝たことあるけど、んなのそもそもまーくんに出会う前だし。だって、過去の事なんてどうしようもねーじゃん....」
その言葉にピクリと反応してしまう。
動きが止まった昌弘に「なあ」と緑が改まって呼んだ。
その呼びかけに静かに視線を向ければ。
「信じろよ...俺の今は...全部、まーくんのもんなんだぜ? 」
涙で濡れた瞳を細め、ニカリと笑う緑。
「.....」
言葉になどならず、昌弘はただ目を見開きジッと見つめる。
「...まーくんがすき」
その姿に己の中で渦巻いていた名も無い感情が確かに『嫉妬』であったと密かに認めた。
そしてそれは同時に己の好きなのは透ではなく緑であるのだと知り得れば昌弘の心はこのひと月半抱え続けた罪悪感のようなものからも解き放たれたのだった。
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