第1章 夏来たりて、彼を求める

2/39
前へ
/178ページ
次へ
1 窓硝子越しに見える真っ青な空とくっきりと存在感を示す白い雲。 空一面に広がる見事なまでの青と地上から這い出た様に伸び上がる巨大な雲がまるで真夏の暑さを思わせていた。 未だ五月だというのにも関わらず早々と夏の暑さを助長する。 そんな空模様を見ながら浅井 緑(あさい りょく)は窓際の席でトントントンと机を指先でノックしていた。 日に焼けていない白い指先が繰り返し机を叩く。 窓の外、すぐ側にある大きな木にいるであろう鳥が元気に鳴き叫んでいる。 緑は鳴きだすタイミングで指先を打ち鳴らし、鳥の声が止まれば指先を止め、また鳴き始めれば打ち鳴らすと繰り返し手遊びを行っていた。 「...コホン...浅井...。もうすぐホームルームも終わるからそう急かさんでくれ...」 あまりに続く催促する様なノックの音に、担任である高齢の教師が苦笑しながら先に降りてしまった。 指摘された生徒。 緑は動かしていた指先をピタリと止めると目を丸くした。 「えっ?...あっ..先生わりぃ...違ぇから!...別に自然にしてただけなんだよっ! 」 緑は指先の動きを止めて顔をあげる。 その反動で栗色のくるりとした猫っ毛はふわりと少しだけ浮いた。 「...うむうむ...自然に催促してたんじゃな」 何処か素っ頓狂な受け答えの高齢の教師が一人納得した様に顎に手をやり大きく頷く。 「.だから違うって..先生...俺の話聞いてくれよ...」 「うんうん。仕方ない仕方ない....今日のホームルームは浅井の所為よって早よ終わろうかの」 若干ほくそ笑みながら帰る準備を始めた教師。 「せんせー...なんか俺が無理やり終わらせたみたいになってんじゃんっ! 」 「まあまあ、気にするな.....別にこの後保健室のみよちゃんとこで茶のご馳走になるからって急いでたわけじゃ無いぞ」 緑の方へと振り向きキメ顔で言った高齢の教師の言葉に突っ込んでしまったのは仕方ないであろう。 「色ボケじゃねぇかっ! 」 そんな年老いた教師と生徒二人のやり取りにクラスから笑い声が聞こえれば教師が無理矢理締めくくり号令をかけた。
/178ページ

最初のコメントを投稿しよう!

269人が本棚に入れています
本棚に追加