第1章

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 父の怒り、母の嘆き、そこにある愛情は私を素通りして、両親の言葉と表情だけが私に残る。  それが私の傷になる。  ああ、痛い。私は泣いている。悲しくて泣いている。  小さい時から今まで出会った膨大な数の人たちが同じことをする。  言葉が残る。表情が残る。みんなが私をダメだと言う。  みんなが私をいらないと言う。  ああ、怖い。ああ、苦しい。ああ、痛い。ああ、寂しい。  それらはすべて傷になる。  私は泣いている。悲しくて泣いている。  私は手を伸ばす。  誰かとつながりたくて手を伸ばす。  つないでほしくて手を伸ばす。伸ばす。伸ばす。そう、今だって私は手を伸ばしてる。  それを見た時、涙が出た。  こんなにたくさんの恐れ、こんなにたくさんの傷、私はその全部に打撃を受けたんだ。  でも・・・・それでも立ち続けた私は、ちゃんとがんばった。  頑ななものにひびが入る音がする。  ああ、開いていく。  そこから、汚物のような過去の思いがしゅるしゅると外に出て、空へと昇っていく。  同時に新しい呼吸をひとつ、する。  まだ、手を伸ばしてる。  つながるものは・・・・きっとある!  体から離れた龍が正面にいる。  光を帯びて輝いている。  大きな目をゆっくりとしばたかせ、月子を見ている。  月子がその目を見つめ返した刹那、風が吹いた。  龍はゴゴゴゴという音と共に、もう捉えることのできない大きさで体をねじらせて月子の体を通り抜け、それから、頭を突き抜けて天へ駆け上った。月子の髪を激しくなびかせながら、颯爽と。 「行け。そのままで、行け」  そう、聞こえた気がした。  私は、だいじょうぶだ。  そう思った。  
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