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あまりにずっとそうだったから、どこかで月子はもう、真理を悟ってしまった。
自分はそれができないのだから、しょうがない。その分野では力を発揮できない人間でいい。
こんな調子で、月子は今までに何度も職を変わってきた。
自分のリミッターを超えると、どうしてもそこにいられない。
そして、次の仕事を探す繰り返し。
理由がはっきりしているのだから、仕事が長続きしないことにはいい加減慣れそうなものだが、こんな月子でもクビになればやはりへこむ。
仕事をしていなければ現実として金はなく、さして楽しい気持ちにもなれないままに、次の仕事を探すエネルギーを養わなくてはならない。
方法がわからないから、月子はひたすら寝た。
何時間でも寝られた。
体が眠りを欲しなくなるまで何日も寝つづけ、ようやく「起きよう」と自分から思った日に、龍を見た。すでに食料も尽き、いい加減、買い物に行かないと、とボサボサ頭のむさい顔で窓を見ていた時だった。
だから思った。「なんで私なんかのところに・・・・」
この龍が目の前にある陶器のカップとちがうところは、触れようとしても触れられないことである。
龍は全ての「物質」をまるで抵抗なくあっさりと通り抜け、それらの物を、青銀に光る鱗ごしに透かして映す。
走り抜けるときも、その動きに反して部屋の中の物は微動だにせず、わずかに月子の髪を揺らすような気がするだけだ。
おもしろいのは、この龍がどうやら電気系統がキライらしいということで、テレビでも電子レンジでもスイッチが入ると顔をしかめ、さっさと姿を消してしまう。
スマホをいじるのも嫌いだ。
そのせいで月子は最近、もともとあまり観ないテレビをほとんどつけなくなったし、以前は簡単だからと電子レンジで暖めていたコンビニ弁当をやめて、鍋で料理を作るようになった。本当は退屈しのぎにyoutubeを観たいが、龍がいる時にはあきらめて本を読む。
普段、龍は、気ままな様子で好きなように空間を飛び回るか、部屋の隅でプスプス「気」をほとばしらせてとぐろを巻いているか、透明な鱗を静かに波打たせておとなしく横たわっているかのどれかで、特に月子とコミュニケーションを持とうとすることはない。ないが、いつも月子のそばにいる。
そして時折、走り抜けざまに振り返り、月子をじっと見る。
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